拾った大金

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 男は思案の末、すべてを使い切ることにした。  これほどの大金を金庫の中にしまっておきたくはなかった。  しかし、今度はこの大金をどうやって使い切ろうか、それに悩んだ。  私利私欲のために使うのは善良なる市民の行動ではない。  ならば、慈善事業につぎ込んだほうがマシではないか。  男はそう思った。  さっそく彼はいろんな施設をまわった。  孤児院や養護施設、寺院や教会、様々な施設に足を運ぶ。  そこで彼は怪しまれない程度にいくらかのお金を渡し、そこで使ってもらうよう頼み込んだ。  善良な市民でなければ疑われたであろう。  しかし男は善良な市民だ。  にこやかにほほ笑むその笑顔が、施設の職員たちを安心させた。  中にはホームレスの人たちが寝泊まりする河川敷まで赴き、彼らに金をばらまいた。  何か裏があるのでは。  最初はホームレスの人たちも怪しんだが、男の笑顔がその疑惑を払拭させた。  男の噂はたちまち全国にとどろいた。  “現代の足長おじさん”。  そう呼ばれ、その素性は明らかにならないまでも、彼の行為は善良なる市民の鏡だと褒め称えられた。  男は非常に満足していた。
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