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婚約者の王子からは夜会や舞踏会がある度に、毎回律儀に招待状が送られてくる。
マリアンヌは丁寧な文字で綴られた綺麗な招待状を見てため息をつき、出席できないことを申し訳ないと思いながらも、毎回体調不良と言って欠席した。
ずっとこのまま欠席し続けられるわけもないとわかっていたが、次こそは、次こそはと、ずるずる先延ばしにしてしまっている。
婚約者の王子は、容姿も性格も非の打ち所がない。およそ王子様と表される要素を詰め込んだような人物だ。
初めて顔合わせをしたのはもう二年近くも前のこと。金色の髪と青い瞳の端正な顔立ちに、物腰柔らかく気品のある身のこなし。武芸もたしなんでいるのであろう、成長しかかった体は男性らしいたくましさを予感させた。
緊張していたマリアンヌに、王子は優しく微笑んで、どうぞよろしくと丁寧に挨拶をしてくれたことは今でも記憶に鮮やかだ。マリアンヌは初めて会ったその日に王子を好きになった。政略結婚ではあるものの、この人が相手で本当に良かったと心から思ったものだった。
婚約が決まってからというもの、王子は事あるごとに贈り物を届けてくれたし、お茶会にもよく誘ってくれた。初めはマリアンヌも単純にうれしかったが、優しく接されるたびに、夜会も舞踏会も欠席し続ける負い目がじわじわと膨らんでいった。
ある日、お茶会の席で「次の舞踏会はぜひご一緒に」と面と向かって誘われたとき、直接断るのがしんどくなって会うのを避けるようになった。
一度会うのを避けてしまえば、次も会いづらくなる。そんな風にして、この半年ほどはまともに会う機会を持てなかった。
贈り物をもらっても、嬉しくなるより苦しくなる。
いっそ見放してくれたらいいのにとも思ったが、王子はずっと贈り物を届け続ける。どれも自分のために、心を込めて選ばれてきたのだとわかる品々。一つひとつに、うれしい気持ちと感謝を伝えたかったが、そんなことよりも伝えるべきことがあるのではないかと、筆が止まっていつも通り一遍の礼状しか返せない。
どうして舞踏会に出たくないのか。
たった一言、踊れないと言えばよかったのかもしれない。それはマリアンヌにもわかっていた。
けれど、ダンス以外は完璧なマリアンヌにとって、何かをできないと言うことはとても難しいことだった。
失望されるのが怖くてたまらなかった。
とっくに愛想は尽かされているかもしれないが、ここまで引き延ばしてしまっては、もうどうしようもなかった。
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