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「相変わらず、ごちゃごちゃしているな、この遊園地」
休日。誰も誘う人がいなかったが、俺は都内の某アトラクションパークに来ていた。
「人が多くて酔いそうだ」
そんなことをぶつぶつ言いながら、俺はどのアトラクションに行くのか迷っていた。
するとその時、一人の男が来た。
「あの、すみません。あなたのスマホを1分間だけ貸してもらえますか。急を要する事態なのです」
「え。あ、はい」
俺は戸惑いつつもスマホを手渡した。
「ありがとうございます。それと、はい、これ持ってください」
男はアトラクションパークのマスコットのぬいぐるみを差し出した。
「え、どういうことですか」
「事情を話している暇はありません。早く、持ってください」
何が何だか分からないまま、持った俺の姿を男は写真に撮った。
俺のスマホで。
「あの、これは一体」
「説明している暇はありません。どうぞ、満面の笑みをお願いします」
俺はぎこちないなりに笑顔を作った。
そうこうする間にシャッター音が響いた。
「ありがとうございます。これで助かりました」
男はスマホを返すと、早急に立ち去った。
後にはぬいぐるみを抱えた俺だけが残った。
「何だったのだ、あれ」
少し気持ち悪いが、俺はパークに戻る事にした。
「気の毒にね」
「まさか、事故に遭うなんて」
「アトラクションパークの帰りなんて、皮肉な物ね」
「それにしても、ちょうど良い写真があったのは幸いね」
「これも何かの運命かもね」
葬儀場中央にある遺影にはぬいぐるみを抱えたぎこちない男の写真が置かれていた。
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