第11話 ボクが強くなりたかったのは

1/1
前へ
/13ページ
次へ

第11話 ボクが強くなりたかったのは

 シルヴィ先生は以前、仲間の足を引っ張って自滅した街娘の話してくれた。 「まさか、その話って」 「わたしのことだ。今でもその街娘は、のうのうと生きているよ。仲間の死を悼んで、贖罪の旅をしている」  ボクの話を肯定し、シルヴィ先生は悲しげな顔をする。 「勇者の資格を持たぬお前は、勇者の聖剣をムリヤリ扱っている。そのために、身体はボロボロのはずだ。今魔王を復活させたら、お前はどうなるかな?」  ローブが弾け、術士が魔物としての姿を表す。 「我は、魔王様より力の一部をいただいている。一筋縄ではいかぬぞ!」  鳥と猿が合わさったような怪物に、シルヴィ先生は剣を向けた。  怪物のツメと、先生の剣がぶつかり合う。 「フィオ、お前は姫を守れ!」 「はい!」  先生が戦ってくれている間に、祭壇からヴァンダ姫を開放する。 「ありがとうございます」 「いいから早く逃げて! ブラオ、姫様を守って!」  ブラオに指示を出す。 「くそ、あと少しだったものを!」 「魔王は復活させぬ!」  魔物と戦う先生の姿は、とても勇者の資格がない街のお嬢さんには見えない。  ボクは、先生を見ているしかなかった。加勢できない。  先生はかつて、愚かな街娘の話を教えてくれた。  そのお嬢さんは、自分の街を焼いた魔王たちに復讐するために、勇者から剣術を学んだ。  カトラリーより重いものを持ったことがなかったが、お嬢さんは気合と執念で乗り切ったという。  だが、強くなりすぎた。そのため先行しすぎてパーティを半壊させてしまう事態に。  お嬢さんはパーティを抜けたと先生は話していたけど、それは全部先生のことだったんだ。 「ぐう!」  先生の剣が、飛んでいく。  ボクの足元に、剣が突き刺さった。 「やはりな! 勇者でもないのにムリをして、聖剣なんぞを振るうからだ!」  魔物は先生を煽っているが、先生は徒手空拳でも十分に強い。  それでも、本気を出したアークデーモンは先生の力を上回る。  先生がボロボロだというのは、本当のようだ。 「しぶとい! あのとき、おとなしく死んでおればよかったのだ!」  アークデーモンの手刀が、先生の心臓を射抜こうとした。  「先生は、勇者だ!」  ボクは聖剣を抜き、アークデーモンの腕を切り落とす。 「なにい?」 「たしかに、先生は勇者としての適合力はないかもしれない。でも、人は誰だって強くなれるんだ!」  それは、ボクが一番よく知っている。 「勇者は一人ぼっちだって、親から聞いた。全部一人で背負っているって」  勇者の話を親から聞かされるたびに、ボクは勇者に対する思いが強くなった。 「貴様も、勇者にあこがれて強くなろうとした無謀なものか?」 「違う。ボクが身体を鍛えていたのは、そんな一人ぼっちの勇者を守るためだ!」
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加