第12話 勇者を守る、村人A

1/1
前へ
/13ページ
次へ

第12話 勇者を守る、村人A

 勇者はずっと、一人で戦っている。  じゃあ、勇者を守ってくれる人は?  ボクの中で、その疑問が膨らんでいった。  実際のシルバー・ソニックと出会ったことで、ボクは確信する。  やはり、勇者は孤独だったのだと。  だから、ボクが勇者を守る。 「お前のような非力な村人なんぞに、なにができる?」  腕を失って虫の息になりながらも、アークデーモンは余裕の表情を崩さない。聖剣で斬られて、再生能力さえ使えないというのに。  実際にそうだ。アークデーモンの腕を切り落とした時点で、ボクは魔力が尽きかけていた。あと一撃、食らわせることができるかどうかだろう。  正確に狙わなければならない。それでも勝てなければ、世界が終わる。  もっと確実に、目の前にいる魔物を倒すには。 「聖剣を渡せ。それはお前には過ぎた代物だ。それは我々魔族が処分する」  なるほど。魔王は、聖剣が怖いのか。  シルヴィ先生は動けない。なんとしても、この場を切り抜けないと。  手段なんか、考えている余裕はない。 「お前には、これが必要なんだろ?」  ボクは、聖剣をアークデーモンに見せつけた。 「聖剣は、渡す! 勇者を開放しろ!」 「何を言うんだフィオ! 聖剣がなくなれば、世界は魔王に支配されてしまう!」  シルヴィ先生の言葉を背に受けて、ボクは振り返る。  先生は、ボクが何かを企んでいることを悟ったようだ。しかし、言葉には出さない。 「殊勝な心がけだ。命だけは助けてやろう」  アークデーモンが、聖剣に手を伸ばす。 「いけ、ブラオ!」  ボクは、「聖剣から」ブラオを召喚した。  魔剣から呼び出せるなら、聖剣でもできるはずだ。  そう確信して、ボクは試したのである。 「な、なんだこれは!?」  アークデーモンが、うろたえた。  聖剣から召喚されたブラオは、体毛こそ青いが、大きさが計り知れない。等の屋上にすら収まりきらない。天使のような羽さえ生えていた。 「おのれ!」  半狂乱気味に、アークデーモンは魔法をブラオに放つ。  だが、ブラオには傷一つつかない。  ブラオの肉球つきの前足が、アークデーモンを掴む。 「やめろおおおお!」  バカでかいブラオが、アークデーモンをパクっと食べてしまった。  塔が姿を消して、禍々しい魔力は霧散していく。  魔王は、今度こそ倒されたのだ。  倒したのは、ブラオだけど。 「よくやったな。フィオ」 「そんな。やったのはブラオですよ」 「いや。お前の魔力は、それだけ大きくなっていたのだ」  危機は去ったはずなのに、シルヴィ先生は起き上がってこない。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加