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「早くみんなを探しに行こう」 由美はそう言ったが、博明はほかの考えがよぎり、歩いて行こうとする由美の手を握って止めた。 「待って。もしかしたらマミやんも裕也ももう殺されているかもしれない。最悪の事態だけど、もしかしたら殺人を行った犯人がいるかもしれない。だからできるだけ二人で離れないようにして、周りに注意した方がいい」 「できるだけ離れないように」と博明はそう言いながら、自分の中にある不純な思いを感じていた。  それはつまり、博明が由美のことをずっと好きだったのだ。  由美と裕也が付き合い始めたのは大学に入ってすぐの頃だった。博明も含めた3人は同じサークルで出会い、由美と裕也はすぐに付き合い始めた。博明は女性と付き合ったことがなく、積極的に女性とにアプローチできるタイプでもなかった。その点、裕也は何につけても積極的で行動力があった。  友人の恋人に手を出してはいけない。そんな常識が、自分が奥手のままでいることを肯定してくれた。そして現実では何もしない代わりに想像だけが膨らんでいた。もしものことがあったら絶対に由美のことを守りたいと、以前からそんな妄想を膨らませていたが、こんな状況に現に陥っても博明の気持ちに変わりはなかった。  こうして由美の手を握るのは多分初めてのことだ。由美の手の柔らかさやその指の細さがとても愛おしく思えた。こんな時に何を考えているんだろうと、自分の心の一方ではそう思いながらも由美を離したくないという思いがそこにあった。 「わかった」 真剣な顔で由美が答えた。博明は落ち着かないを気持ちを、どうにかして落ち着かせようとしながら喋った。 「2人でできるだけ離れないようにしよう。もしかしたら大きい声も出さない方がいいのかも知れない。犯人に気づかれたりすると危ないのから。マミやんはまだ近くにいるはずなんだけど・・・それより裕也だ!裕也は本当にどこに行っちゃったんだろう」  裕也は一体どこにてしまったんだろうか。もしかして三木たちの死体を見つけて、博明たちと同じように犯人を警戒して、隠れているのかもしれない。  でも、もしかしたら裕也にも何かあったのかもしれない。何もないに越したことはないが裕也がいなくなれば、由美の彼氏がいなくなる・・・。博明はそんな想像を心のどこかでしてしまっていた。
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