2人だけ

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「どうしたんだよ?」 博明の問いかけを無視して由美は話し始めた。 「マミやん、あなたが犯人なんでしょ?」 マミやんは答えなかった。 「なんでマミやんが犯人なんだよ。一緒にバスから降りてきただろ?」 博明の言葉を気にせず由美はマミやんに話し続ける。 「今だって、私と博明を離れさせて背後から博明を刺そうとしてたんじゃない?」 博明がマミやんを見ると、由美の方をじっと(にら)み返していた。 ――マミやんってこんな子だったけ?彼女は2年生で、ニキビが多い地味な顔の子。あまり目立つ方ではないけど、1年生の頃は遅くまで部室に残ってずっとギターの練習をしていた。メインでやっていたバンドのメンバーがサークルを辞めてしまい、最近部室で会う機会が減ったような気がする。真面目な頑張り屋くらいな印象だったが・・・、この目つき、今までとは違って見える。 「南ちゃんはたぶん、衝突事故のせいじゃなくて、首をナイフで刺されて殺されてた。青木君たち1年生は一番後ろの席だったし、南ちゃんのすぐ後ろの席のマミやんが一番にやりやすかっただろうし、他の誰かがやったらマミやんが気付くと思う。そして、三木君と片瀬君も誰かにお腹を刺されてた。マミやんがバスに戻ってきたとき靴が血だらけだったのに私は気付いたの。あれって外で死んだ誰かの血でしょ?そうじゃなきゃ怪我人の手当てもしてないマミやんの靴に血が付くのはおかしいでしょ?」 「通路も血に足跡がたくさん付いてたし、それで汚れたんじゃないか?」 博明は青木たちが犯人だと確信している。 「靴の裏だったらそれで汚れが付くけど、離れたところからわかるくらい靴の周りにも、上にも血が付いてたのよ。出血した誰かを介抱したか、返り血を浴びたかしか考えられない。三木くんも片瀬くんも刺された傷以外にそれほど血は出ていなかったし・・・。それか裕也の血かもしれない」 まだマミやんは何も言わない。沸々(ふつふつ)と怒りを燃やすように由美を睨みつけている。博明がマミやんの靴を見ると確かに靴下にあたりまで血が付いている。 「裕也がバスから出ていって少ししたあとマミやんがバスに入ってきたの。多分あれくらいの時間だったらバスの周りで二人は会ったはずだと思ったのに、マミやんは会っていないと言った。あのとき、会ってすぐに、何も知らない裕也を殺したんでしょ?答えて!」 由美は裕也が出血して死んだ姿を思い出して涙ぐんでいた。 まだ何も答えないマミやんを次第に怪しいと理解し始めた博明は、少し距離をとった。 「バスに戻ってきたとき、本当は誰か一人だけ降りて来させて、一人ずつ殺す気だったんじゃない?でも私と博明も、おかっぺとリンちゃんも、どちらも二人組だということに気付いて予定を変更した・・・。博明がガソリンとか爆発の話をしたせいもあるかも知れないけど、バスに火を着けたのもマミやんよね?じゃなきゃ、あの爆発を見て静かに声も出さずにいられる?私達とまた合流したあとも平然とした感じだけど、それが一番怪しいの。普通に黙っていられるかな?この状況で」 「あんたたちが悪いのよ」 (せき)を切ったようにマミやんが喋り出した。
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