言い分

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言い分

「あんた達が悪いのよ。私は本気だった。本気で人生を賭けてギターをやってたのに、ヘラヘラしたあんた達が私よりもギターが上手いなんて。 ずっと、そんなの認められなかった。私にはギターしかなかったの。だからバンドメンバーが見つかって、バンドを組めたのが、それがすごく嬉しかったのに、篠原の奴がサークル辞めるって。 私は、別にサークル辞めてもいいけどバンドは続けようって言ったのでも、でもあいつ、バンドも嫌になったって・・・。 ふざけるな! あんたのバンドじゃない! 私のためにあるバンドなの! ・・・そう言ったの。 でも他のメンバーもみんな辞めるって。その程度だったの。結局、本気だったのは私だけ。誰も私について来ない。他の人にはできない何かができるって思ってたのに、私の理想を何度もメンバーに話したのに誰にも伝わってなかった、理解してなかった。」  正直、マミやんはそんなにギターが上手くないと由美は思っていた。基礎練が足りてない。ギターが好きでずっと弾いているけど、練習の仕方がわかってないって感じの弾き方。妙な癖がついてる。ダラダラ引いてるだけじゃ上手くならないんだよ。それを教えてくれる仲間も、自分で気付く才能もない平凡な子。 「見下してんじゃねぇよ!」 急に大声を出したマミやんに、博明も由美も体がビクリと反応した。  情緒不安定、っていうか自分の世界に浸ってる感じでついて行けない。由美は冷めた目で見ていた。 「南さんに本気のバンド組もうって話したんだ。でも、また駄目だった。・・・三木君も入れて何度か一緒に演奏してみたけど、音楽性の違いで駄目だった。南さんのベース、マジで上手いけど、あの人にとって音楽は遊びなの。私とは違う。私よりうまいくせに、私より本気じゃないの。なんなんだよ、ホント。そんな奴ばっかりで、あぁ、もう、産まれてくる世界、間違えたって。――裕也先輩ってギター上手いじゃないですか?」 マミやんは由美に質問してきた。 「2年浪人してプロ目指してたこともあったからね。プロ並みだと私は思ってる」 「最初に裕也先輩のギターを聴いたとき、本当に私の憧れの人になったんですよ。でも結局、彼女作ってそれで満足してる男だって気付いた」 「あなた、裕也のこと好きだったの?」 由美が話を割って質問した。憧れの人に彼女がいて落ち込んだ。そういう風に由美には聞こえた。 「そうじゃねぇよ!そこで終わるような奴なんだって、わかって、がっかりして、嫌になって・・・。私よりギター上手いくせに、本気じゃないなんて、殺してやろうってその時決めたんだ。だから、篠原と南さんと裕也先輩を殺そうと思って」 ――篠原はもうサークルを辞めてるから、この旅行には参加してないぞ?と博明は気になった。 「この前のイベントのとき、青木がなんて言ったか覚えてます?"あいつ、マジ下手くそじゃん"って博明さん言われてましたよね?演奏失敗して、"だっせぇ"って。人の演奏バカにするような奴が一番嫌いなんですよ。でも、他の人も内心、馬鹿にしてるんでしょ。自分の方が上手いって。"あー、アイツはまだ私の所まで来てない"って」 この愚痴をいつまで聞かないといけないんだろうと、由美は思い始めた。マミやんはきっとナイフを持ってる。それにさえ気をつければいい。 博明は自分の演奏の話をされるのが嫌だったし、青木のことが嫌いだった。悔しいが青木は一年生で入ったときからベースが上手かった。 「だから生意気な一年全員殺そうと思って」 「マミやん、落ち着いてよ。そんな子じゃなかったでしょ?」 由美は、エスカレートするマミやんをなだめようとした。 「そんな子じゃない?あんたなんて、なんにもわかってない!そういう人のこと、わかった気になってる奴が一番ムカつくんだよ」 そのとき、がれきが崩れる音がした。 「誰かいますかー!」
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