狂乱の果てに

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 呪詛をはき続ける女は、完全に壊れてしまっていた。  死んだような目をして、目の前にある男の身体を無作為に刺し続けていく。  徐々に男の傷口が深くなり、出血量も増えていく。始めはかすり傷程度だったカッターナイフの傷口も、何度も刺されることにより立派な裂傷になっていった。  血だまりが足元に出来上がっても女の手は止まらない。そうしているとカラオケボックスの個室の扉が何の前触れもなく開いた。入ってきたのはカラオケ店の店員だった。 「た、助けて……!」  立っていられなくなっていた男は情けない声を上げる。カラオケ店の店員は一瞬、この状況について行けなかったが、血まみれの女に床の血だまり、男の悲壮感にすぐに別のスタッフを呼んだ。  それから総勢三人の男に、女は押さえられる。三人の男性店員に押さえつけられた瞬間、女が再び発狂した。 「やめろぉぉぉおぉぉぉおおっ!」  離せっ! 離せっ! と叫ぶ女を、店員たちが必死に取り押さえた。女一人に男三人がかりでも手を焼くほど、女の暴れる力は強い。  そうしているとどこからともなくサイレンの音が聞こえてきて、救急隊員と警察が駆けつけた。  意識がある男は救急隊員に連れられてすぐさまどこかの病院へと運ばれていった。男が視界から消える瞬間まで、女は叫び続けた。
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