一章 静寂

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暫くは母と過ごした。 心神耗弱となった母はろくにご飯も食べずにすぐに薬を飲んでは眠るという生活が続いた。 落ち着いたかと思えば、今度は大声で叫びだし度々近所に頭を下げる生活が続いた。 今日も突拍子もない奇声が喚く。 「何で捨てるようなことをしたんだ。 何で余計なことをするんだ。」 〜何で俺が怒られなきゃいけないんだよ〜 というセリフをぐっと呑み込み、その場を離れて外へと逃げ出した。 走っても走ってもまだ息が荒くならない。 全力疾走をしているはずなのに中を浮いたかのように体力が減らなかった。 人通りのない橋の真ん中で川を眺めていた。 ゆっくりと濁流した川の水は少し濁り遠くからでは魚が泳いでいるかなど把握できない。 どれくらいの時間が経ったのだろうか? 自動車のクラクション音が胸に嫌に響き渡り、小雨が降り出した。 そういえば夜から雨だった、朝のニュースの天気予報を思い出した。 今から実家に戻ったらギリギリ間に合う。 自分の家へ戻ると 確実に土砂降りの餌食は確定だ。 手持ちも持ち合わせてない。 母の餌食になるより雨に濡れたほうがよっぽど良かった。 俺は全力疾走した道を再び引き返す。 しかし 体力は続かない。 ここで歩いてしまえば 風邪を引くほど濡れてしまう。 それでも意識に反して 足なんて動いてくれない。 飼い主の言う事を聞かず、道端の草を食べ続ける犬と自分の足の姿を重ね合わせた。 近くに雨宿りできるようなスーパーはあるか? チェックポイントになるような場所はコンビニと古びたパチンコ店しかない。 あの大音量のなかで待ち続けるのは苦痛でだからといって、コンビニで何も持たずに長時間居座り続けるのは肩身が狭すぎる。 暑さが体力を蝕み、喉の乾きが急激に襲う。 自動販売機を見つけるたびにコーラや天然水を睨みつけ通過していく。 時間は何時なのだろう? どれくらい進んだのだろう? あとどれくらいで付くだろう? 疑問を解決できる手筈は持ち合わせていない。 俺はひたすら 家へ付くまで走り続けていった。
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