一章 静寂

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会議資料を作り終え、葬儀に参列した。 しかし母の姿はなかった。 親戚からも関係者からも事情を聞かれ、その場を取り繕う。 母が犯人だなんて誰も思っていないだろう。 テレビのインタビューで被害者の妻として紹介された母は、涙ながらに夫の無念と加害者への怒りをぶつける演技をしていた。 それ以来母の姿は見ていない。 二日間とはいえ、このまま放置するわけにもいかない。 会葬御礼を受け取り、親戚の集まりに参加したものの運転しているという嘘の口実をつけ、お酒は断った。 コロナ禍の中、集まりは早めに切り上げられ、喪服から安売りされた普段着ていない無地のパジャマに着替え、実家へと向かう。 会社帰りのサラリーマン 部活あがりの高校生などで賑わう時間  俺は手土産を持ちゆっくりと歩いた。 二日ぶりに見た母はインタビューをしていた顔と違い、やはり生気を感じられなかった。 鏡越しに姿を確認するやいなや、襲いかかる。 「なんでころしたんだ お前のせいで人生が狂ったんだぞ。」 細長い手で首元を締め付けられる。 その瞬間母を蹴飛ばし キッチンにあったナイフを突きつける。 「あんたのために隠蔽工作もしてやったのに、今度は俺も殺すつもりが。 昔のアンタのまんまだったな。 お前のせいで お前のせいで大好きな父さんが死んだんだぞ。  人生を狂わされたのは 俺の方だぞ。」 その後の事は覚えていない しかし過去記憶が鮮明にフィードバックされた。
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