1人が本棚に入れています
本棚に追加
俺が小学生の頃 父は離婚した。
父は気弱いサラリーマンであったが、正義感に満ち溢れていて休みの日は疲れた体を押して公園 遊園地どこへでも連れて行ってくれた。
そんな父を前妻は捨てた。
イケメンホストにつられて、不倫を目撃され、あんたなんか愛してないよと酷く罵られゴミのように捨てられた。
しかしそんな父は変わらず男手一つで育ててくれた。
離婚調停は前妻の不倫が原因とされ父は勝訴した。
暫くは嫌がらせメールが続いたが気づいたらそんなメールもピタッと止んだ。
俺が中学生になった頃に今の母と出会った。
(今となっては母とも呼びたくもないが)
母は父がよく通っていたバーのママだった。
常連になっていくうちに恋が芽生えて、俺に内緒でデートもしていた。
初めてあったのは結婚が決まる一ヶ月前
スラリとしたショートロングに30代中頃には見えないツヤツヤとした肌に、キラリと光る唇
あまりにも美人過ぎて 我ながらに照れ、話しかけられなかった。
そんな母は可愛らしい声でこんにちはというと、頭をぽんっと撫でてくれた。
これが初恋なんだなと勝手に自覚していた。
それが最初で最後の絶頂であった。
結婚してから、稼ぎがあるからという理由でバーのママを辞めた。
スッピンの母はまるで別人だった。
所々にシミが目立ち、目の下にくっきりとクマが出て鼻毛が少し伸びたように見える。
四十代後半に見られてもおかしくなかった。
メイクで全てごまかされた母は 性格までも化けの皮がはがれた。
父のいないところで俺は召使いのように扱われた。
できない料理を強要させられ、不味いとその場で捨て飽きるまで罵声を浴びせられる。
かと思えば父が来ると、豹変したかのように大人しくなる。
高校生になりエスカレートしていった。
父がいてもお構いなしに殴り蹴りを入れられ、掃除が汚いと雑巾を顔に投げつけられもした。
そんな日々が三年も続いた。
実家から少し離れた工場に就職先が決まり、一人暮らしの準備をしていた頃
母があの頃のように俺に近づき、涙を流した。
「今までごめん だから帰らないで。
一緒にいたいの。」
「ありがとう でも一人暮らしすることにするよ。
あなたのおかげで色々経験が積めたから。」
そう言い残し実家を離れた。
父の瞳の奥に無常の悲しみが見えた気がした。
最初のコメントを投稿しよう!