一章 静寂

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三年後 俺は死刑が確定した。 控訴もする気が起きなかった。 俺のような凶悪犯を社会が受け入れてくれる訳がない。 だからここで一生を終えたほうが気分が楽に住む。 死後の世界だの幸せになれる本だの胡散臭い本をすべて読み漁り、薄味のご飯を食べ、たまにテレビを見ながら寝る毎日。 それが何故か俺にとっては幸せな日々だった。 刑務作業に追われ刑務官に怒鳴られる囚人、脱獄を企てた挙げ句すぐに捕まる囚人 そんな人達よりも俺は恵まれていた。 そんな日常が続いていた。 しかし突然終焉を迎える。 「囚人番号 1578 執行だ。」 五人の刑務官が俺を引っ張り上げる。 ついにその時が来てしまったかと少しがっかりした。 備え付けの饅頭を食べ、死後の世界についての神話を聞くと、目の前にはテレビで見たような紐がくくりつけてある。 あぁ俺もついに あの場に立つのか。 しかし、テレビで見たような無駄な抵抗はしなかった。 最後の最後で無様な醜態を晒したくなかった。 「何か言い残したいことはあるか。」 「父さん折角育ててくれたのにごめんよ。 母さん 因果応報って言葉を知っているか。」 今のあんたの事だよという言葉をグッとこらえた。
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