一章 静寂

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一章 静寂

電話越しに母の啜り泣きが聞こえた。 「助けて 助けて......」 喋り続けるにつれて、か細い声がかすれスマートフォンをギュッと耳に近づけてやっと内容を理解できるような声量にまで低くなった。 何が起きたかは分からない。 だけど最悪の事態が起きていることは想像に値できた。 やがてすすり泣きの声も消え、無言の時間が続く。 誰かに見られてるかのような、そんな不安が立ち込める。 こっちから電話を切ろうか? いや沈黙を突き破るきっかけを作らなければならない。 しかし状況が状況である。 呑気な戯言を垂れて相手を刺激したら、下手な行動に出かねない。 考えを巡らせるうちに、か弱い声が再び聞こえた。 「気づいたら倒れてたの、殺す気はなかったの。 今から来て 警察には言わないでほしい。」 電話が切れた。 反論をする隙さえ与えてもらえずに。
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