龍神の杭

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 (すぎ)(もと)()()は京都に縁のある人間だった。そもそも彼女には二柱の付喪神が()いていると言う点で、普通の人間とは違う人生を送ることになるのは言うまでもない。  東京の出版社で働いている杉本沙夜は初夏の京都出張を皮切りに、京都出張を言い渡されることが多くなった。泊まりがけの出張も多く、今回もまた、泊まりがけで京都の貴船周辺の取材を任されていた。  さて、そんな杉本沙夜に()いている付喪神だが、一柱は沙夜が幼い頃から一緒に居た(くし)の付喪神、名を『つき子さん』と言う。このつき子さん、男性にもかかわらず女性よりも美しい長い黒髪を後ろで一本に縛っていた。  そしてもう一柱の付喪神は鏡の付喪神である。初めての京都単独取材時に出会った老人から譲り受けた鏡、それがこの鏡の付喪神、『かがくん』である。名付けたのはもちろん沙夜だ。寡黙なこの鏡の付喪神はなかなか姿を現すことがなかった。  さて、今回の貴船周辺の取材においても、単独での取材と言いながらもこの二柱の付喪神ももちろん一緒にやって来ることになる。しかし付喪神は一般的に人には見えていないため、沙夜は極力、外での会話を避け、会話をする際も小声で行っていた。
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