龍神の杭

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 川床の座敷へと足を踏み入れた瞬間、沙夜は一瞬、この座敷にクーラーでも入っているのだろうかと錯覚した。それほど、この川床は外の暑さから隔離されているのだ。  川の上に作られた座敷は下から貴船川の流れと冷気が感じられる。そうして川床の雰囲気を楽しんでいると、料理が運ばれてきた。沙夜は(そろ)った料理を持ってきていたカメラで撮影する。珍しいものとしては(あゆ)の塩焼きがある。都会ではなかなかお目にかかれない魚である。  沙夜は一通りの撮影を終えると、一品一品の料理の味を()みしめながら食べていった。 (夏にしか味わえない(りょう)……、これは、いい値段するはずだわ)  この川の上の座敷の雰囲気は、なにより開放的で、この空間にいられるだけでも価値はあると感じさせてくれる。  そうして料理を平らげた沙夜が少し休んでいると、 「ホンマに、雨が降りませんなぁ……」 「私、貴船の(りゅう)(じん)様に、雨が降るようお願いに来たんです」 「それがええ。私も、お願いします」  そんな会話が聞こえてきた。そこで沙夜はふと、先日テレビで()た京都がこの夏、水不足であるニュースを思い出した。 「ねぇ、つき子さん。貴船の(りゅう)(じん)様って確か、水の神様だよね?」
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