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沙夜は小声で、傍に控えているだろう慣れ親しんだ付喪神へと言葉を投げかけた。声をかけられたつき子さんは沙夜のすぐ傍に顕現すると、女性的なやわらかな微笑みを浮かべながら、
「そうですね。春先には雨乞いも行われ、その年の豊作を願っているはずです」
そう答えてくれる。
「貴船の龍神様って、どんな神様なの?」
沙夜は続けて小声で質問した。その質問にはさすがの付喪神であるつき子さんも困ったように眉尻を下げる。言葉が出てこないつき子さんに変わって返事をしたのは、鏡の付喪神である、かがくんだ。
「偏屈な神だ」
かがくんは端的に声だけでそう述べる。どの辺りが偏屈、と表現されるのかは沙夜には分からなかったが、存外、神様と言うものは人間に近い存在なのかもしれない。
沙夜はそう思うと、腕時計に視線を落とす。そろそろ貴船神社への取材に移らなければならない。
沙夜は川床で聞いた京都の水不足の話を気にしつつも、場所を移動するのだった。
貴船神社に到着した沙夜は、まずは社務所へと向かった。社務所ではこの貴船神社の祭神である水の龍神にあやかった『水占みくじ』を買い求める観光客で賑わっていた。
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