ウサギとカメと競争と

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ウサギとカメと競争と

 昔々。  ある山に、ウサギとカメがおりました。  彼らは昔は犬猿の仲でございました。ウサギはカメをノロマと見下し、カメは不真面目なウサギに呆れ果てていたからでございます。  しかし、それも既に千年以上昔のこと。  最近の彼らは、ある理由から互いに同情し、共感し、そこそこの仲良しになっておりました。というのも。 「あー、またアレだよ」  のんびりカメと日向ぼっこをしていたウサギは、大袈裟にため息を付きました。 「また、空が割れてくよ。誰かが俺達の話を読もうとしてるんだぜ。こんな退屈な物語のどこが面白いんだか」 「いやはや、まったくだ」  青空がぱっかりと割れていき、その向こうからこちらを覗き込む子供の顔が見えます。ここが絵本の世界だと、ウサギとカメは気づいておりました。空が割れるのは、絵本のページを開いた合図なのです。子供がまた、お母さんに絵本を読んでもらおうとしているのでしょう。  お話が始まったら、ウサギとカメはどんなに面倒くさくても、犬猿の仲を演じなければいけません。そして楽しくもなんともない競争をしなくてはいけないのです。 「千年前の俺ら、なーんでこんな馬鹿な競争したかなぁ。ウサギとカメで競争して何が面白いんだよ、誰がそんなこと言い出したんだよ……俺だよ」 「ウサギよ、僕も賛成したんだからあんまり気にするな。……ええっと、今日もウサギはAの53ポイントで昼寝をするってのでいいな?」 「ああ、その間に通過してってくれ。起きてても寝てるふりしてるからよ」 「了解」  千年前のレースがうっかり童話になり、絵本になってしまったがために、ウサギとカメはえんえんと楽しくもなんともないレースを繰り返しているのでした。  今日も今日とて、八百長レース。勝つことが決まってるカメも、負けなくてはいけないウサギもまったく楽しくありません。 「そろそろこの絵本にも、みんな飽きてくる頃じゃないのかい」  ある日、ついにカメが言い出しました。 「わざわざ人間どもの希望通りに、出来レースやり続ける意味なんかないような気がしてきたね。いくら神様のご希望とはいえ、僕達だって正直飽き飽きしてるんだ。そろそろ、違う物語を考えてもいいんじゃないかね」 「おう、カメよ。わかってるじゃねえか。いい提案だ。しかし、本を開かれたら俺達が何らかの物語を演じなくちゃいけねえのは事実。出来レース以外に、なにか面白い企画あるのかい?」 「そうさなぁ」  よし、と。カメは短い前足を上げて言ったのです。 「僕もウサギも楽しくて、刺激的で、人間どもがまったく予想できないような勝負をしてみればいいんじゃないかね?なあに、この山には道具は何でもある。人間どもの時代に合わせた、とびきり楽しい勝負をしてやろうじゃないか」
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