真夜中に彷徨いし愛すべき面々

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 夜中の老人ホームは闇に包まれ、しん……と静まり返っていたーー。  と思いきや、そうでもなかった。 「相葉さん、トイレですか?」 「ああ、年取ると夜中に何度もトイレに起きてしまってなあ」 「大変ですね」  高齢者はトイレが近いので夜中でもトイレへ行く人が少なくない。トイレの入口は大きく開かれていて、その明かりで廊下は結構明るい。 「あらあら井上さん、お散歩ですか? 気を付けてね」  夜間徘徊している入所者もいた。ただグルグルと歩き回っている。その他イビキの大きい人、特に睡眠時無呼吸症候群の方が久しぶりに呼吸をする時の音はかなり大きく、飛び上がるくらいびっくりした。思っていたより夜の老人ホームは賑やかだった。  私は瀬戸(せと)きわ美、介護福祉士を目指し介護専門学校で学んでいる。2週間前からこの施設で実習をさせてもらっていて今夜が初めての夜勤だ。気合を入れ昼寝をしてきたのでバッチリである。  9時に消灯し、今は0時。夜間巡視の時間だ。この道20年以上というベテラン介護師の桜田さんと一緒に施設内を回る。ただ回るだけかと思っていたが、ひとりひとり息をしているか確認する。寝返りが出来ない方の体位変換や痰吸引の必要な方の吸引も行う。それだけでも時間がかかるのに、途中ナースコールで呼ばれたら行かなければならない。  介護師は交代で仮眠を取る。相方が仮眠中は1人で全て対応しなければならない。大変な仕事だと改めて感じた。  ボリ、ボリ…… 「何か変な音がしますね」 「もしかして……」  桜田さんが隣の部屋へ走った。私もついていく。
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