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「あー! 上原さん、夜中にお菓子なんて食べちゃダメじゃないの! それも入れ歯外してお煎餅なんか!」
「いやぁ、ちょっと小腹が空いて……」
「詰まったら大変でしょ! これ預かっておきます!」
「え〜、もう一口……」
「ダメです!」
桜田さんはお菓子を取り上げた。上原さんは渋々布団を被った。
「夜中は食べちゃいけないんですか?」
「以前夜中にこっそり食べて喉に詰まらせて亡くなっちゃった利用者さんがいたのよ。高齢者は唾液の分泌が減るし嚥下機能も落ちてるから気をつけなきゃね」
ただのイジワルおばさんだと思って見ていたが、さすがベテラン介護師さん。心を鬼にして利用者さんの命を守っているのだ。見習わなくては。
「さて、これで巡視は終わり。詰め所に戻って記録しましょう」
「はい!」
これでひと仕事終わった、とホッとした時だった。
「ドロボー! 誰か来てー!」
闇を切り裂く老婆の悲鳴!
桜田さんと一緒に走った。昼間は入所者さんとぶつかる危険があるので絶対に走ってはいけないと言われている廊下を全速力で走った。
「どうされましたか!?」
若い私の方が先に到着した。
「私の財布が無いの。盗まれたのよ! 泥棒よ!」
「え! それは大変、警察に……!」
「ちょっと待ちなさい」
慌てて部屋から出ようとした私の腕を、遅れて来た桜田さんが掴んだ。
「でも財布を盗まれたそうです。一大事です!」
「江戸川さんは認知症よ。”物盗られ妄想”よ」
「物盗られ妄想……」
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