真夜中に彷徨いし愛すべき面々

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 日時や場所が分からなくなってしまったり、家族の顔さえ忘れてしまう認知症。その症状の中に「物盗られ妄想」がある。お金を盗まれたと訴える事が多く、大抵はお嫁さんが犯人にされる。 「本当に盗まれたんじゃないんですか?」 「江戸川さんはお金の管理ができないから財布は持たせてないの。だから無いものは盗まれない」 「そうなんですか……」  私たちが話している間も江戸川さんは騒ぎ続けていた。 「これじゃ他の人が寝られないわね。静養室に運ぶから手伝って」 「はい」  騒ぐ江戸川さんを乗せたままのベットをゴロゴロと押して静養室へ運んだ。その間中「何処へ連れてくのよ!」「犯人逃げちゃう!」「人さらいー!」となおも騒ぎ続けていた。  静養室は介護師詰め所の隣にある。本来状態が良くなく常時観察を必要とする方に入ってもらう部屋だ。なので個室であり同室者の睡眠を妨げる心配はない。 「私記録しなきゃいけないから。瀬戸さんお願いね」 「え、どうすればいいんですか?」 「学校て習ったでしょ」  そう言うと桜田さんはさっさと行ってしまった。残されたのはなおも騒ぎ続けている江戸川さんと私だけ。どうやって落ち着かせたらいいんだろう。 「ここは何処!? この人さらいが! アンタも泥棒の一味だね!」  学校で習った事……認知症の方への対応の仕方は……。そうだ、否定しない、共感する、だ。
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