真夜中に彷徨いし愛すべき面々

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「お財布盗まれちゃったんですか。大変ですね」 「そうよ! 子供の給食費払わなきゃいけないし、そろそろ寒くなるからセーター編んであげようと思ってたのに!」 「セーター編むんですか?」 「そうよ。あの子の好きな青いセーターをよ!」 「えー凄いです。私編み物できません」 「やだ、お母さんに教えてもらわなかったの?」 「父が病弱で母が仕事してたので」 「あら、そうなの……」  江戸川さんはポツリポツリと話し始めた。  江戸川さんは早くに旦那さんを亡くし女手ひとつで息子を育て上げたそうだ。家計は苦しく働きづめだったが愛情を注ぎ息子を育てた。毎年成長する息子に服を買ってあげるお金もない。そこで古いセーターをほどいて毛糸に戻し、ほんの少し新しい毛糸を手芸屋さんで買ってくる。それで前より大きめのセーターを編んであげていたという。 「江戸川さん苦労されたんですね」  すっかり感動し、私は江戸川さんの手を握りしめていた。 「昔はそれが当たり前だったのよ。今みたいに安い店なんてなかったし」 「でも凄く愛情を感じました。息子さんもさぞ感謝してる事でしょうね」 「それがね、聞いてくれる?」  働きに働いて江戸川さんは息子さんを大学にまで行かせてあげた。大学は県外。卒業したら戻ってきてくれると信じていた。しかしそこで息子さんは就職してしまった。そして同僚の女性と結婚した。彼女はひとり娘。両親は側にいて欲しいと実家の側に家を建ててくれた。 「とんだ泥棒猫だよ! 人のうちの跡取り息子を!」 「うわ……じゃあ江戸川さんずっと1人で」 「そうなのよ。孫にだって盆と正月にしか会えないんだよ。こんな事なら大学になんて行かせなきゃ良かった」  頑張った甲斐なくひとりぼっちになってしまった江戸川さん。慰めの言葉が見つからない。
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