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恩のある社長に、ああ言われてしまっては応えないわけにはいかない。
正直怖いけれど。
めっちゃくちゃ怖くてたまらないけれど。
でも、自分が一番やりたいこともできず、腐っていくばかりだった自分達に与えられた最大のチャンスであることは間違いないのである。
「このミッションに成功したら」
東京ドームに設置された、特設ステージ。中央のマイクの前に立って位置を調整しながら俺は言った。
「俺達、きっとヒーローだよな。仕事、バンバン来るようになるよな」
「ふ、フリートークを要求されないテレビ番組なら、で、出たいな」
「お、同じく」
うんうん、と月岡兄弟が頷く。
「俺も、歌わないでひたすらギターと作曲だけやってたい」
ジェーンがチューニングをしながら言う。
「お前らそれ、全部死亡フラグだからな。やめてくれ」
ナルシストのように長い髪を掻き上げて、フユキが言った。今日のため、みんなが普段やっている他の仕事を休んでまで必死になって練習をかさねてきたのだ。歌って、踊って、奏でて、語って。自分達は今から、異星人たちに悟られないよう、全力で“彼等を楽しませるためのアイドル”を演じ切らなければいけない。
そして、催眠術師に指導された通りの、最高のエンタメと催眠術を披露する。彼等が、満足して地球から立ち去ってくれるように。
「準備はいいか、野郎どもおおおおお!」
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「行くぜええええええええええええええええええええ!!」
そして、世界を救うための舞台が幕を開けた。俺はいろいろな国の言葉を混ぜ込んだ平和のための歌を歌い、月岡兄弟が異星人たちの注目を集めるような魅惑のダンスを踊り、ジェーンが催眠術の効果を増大させる特別なコードを弾く。そして、それらをバッグに、フユキが“恋人に先立たれて自殺を考える悲劇のヒーロー”の役を演じて異星人たちの涙を誘い、催眠術が効くように仕向けるのだ。
雑草だらけのヒーローたちの、全力投球。
これで命尽きても後悔はない。そう思うほどの全力の演技を俺達は行ったのだった。そして。
『素晴らしい!』
催眠術がどこまで効いたのか、結局のところはわからない。ただ、中継のあと、宇宙船からこんなメッセージが届くことになるのだった。
『君達のステージを見て、我々は大変に満足した。今までの非礼を詫びよう。我らは潔くこの惑星を立ち去ることにする。最高のステージをありがとう!』
地球は救われた。俺達は抱き合って、生きている幸せを噛み締めることになるのだった。
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