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「こんな結婚生活にしがみついちゃって、馬鹿みたい。あなた、自分が惨めとか思わないの?」  義理の娘の言葉に、私はさっと血の気が引きました。へなへなと力が抜けて座り込みたくなります。結婚して以来の私の努力は、空回りしていただけ。もちろん、そんなこととっくの昔に気がついていたのですが。 「あーあ。お父さまもどうしてあなたなんかと結婚しちゃったのかしらね。もうちょっと他にいなかったのかしら」 「奇遇ね。実は私もずっとそう思っていたのよ」  目を逸らしてきた現実に向き合えば、自分の立ち位置がよくわかります。社交界の貴公子に拾われた、お飾りの妻。内向きの仕事どころか、年の近い継娘の世話すらろくにできない役立たず。 「ええ、本当に。馬鹿みたいね」  頑張ろうと思い続けていた気持ちが砕け切った後に残ったのは、なぜか笑い出したくなるような爽快感でした。
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