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「アイビー、どうして君はリサと仲良くできないんだ」 「申し訳ありません。けれど……」 「言い訳は聞きたくない。リサからの文句を聞くだけでお腹いっぱいなんだよ」 「……はい」 「まったく、とんだ見当違いだったな。あの厳しい老婦人のもとで暮らしてきたのであれば、誰に対しても人当たり良く暮らせると思っていたのだが。まさか君がこれほど口やかましい人間だったとは」 「それは彼女のために……」 「疲れているんだ。ひとりにしてくれ」  エリックさまには、奥さまの忘れ形見である一人娘がいらっしゃいました。そのわりに、あまり関心がなさそうなのです。もちろん、不自由のない暮らしをするだけのお金は十分与えられています。けれど、それだけでは足りないものがあるのではないでしょうか。  彼女が恥をかかないように、全力でサポートしなくては。そう思ってあれこれと彼女に話をしてきましたが、それは彼女にとっては煩わしいただのお節介でしかなかったようでした。 『放っておいて』 『今やろうと思ったの』 『それくらい、言われなくてもわかってる』  それでも私はあれこれ言うのをやめられませんでした。行儀見習いに行ったはずなのに何も教えてもらえず、人前でたくさんの恥をかいてきた私には、不必要な苦労はしないほうがいいと思えてならなかったからです。  私には、こんな風に親身になってくれる家族なんていなかったのに。そんな嫉妬……いいえ、怒りでしょうか。子どもに向かって抱いてはいけない想いさえ持っていました。そんな人間だから、義理の娘は私を軽蔑していたのかもしれません。 「リサの好きにさせればいい。あの子ももう16才、いい大人だ。婚約者だっているんだ。別に今さら慌てて淑女教育を見直す必要だってないだろう」 「そう、でしょうか」 「僕は今夜は帰らない。先に休んでおいてくれ」  結婚してからわかったことですが、エリックさまには常時複数の恋人がいらっしゃいました。ですから、義理の娘に母として受け入れられなかった私は、本当に出番などなかったのです。  夜会は、エリックさまがその時々の恋人たちを連れて行きます。もちろん、この家で茶会を開けばまた私なりの関係が作れるのでしょうが、お飾りの女主人に声をかけるような奇特なご婦人方はいらっしゃいませんでした。  それでも、私はエリックさまを愛していました。あの灰色の家から連れ出してくださったエリックさまは、私にとっての光でしたから。 「君も好きに過ごしてくれたまえ。子どもさえ孕まなければ、好きな男を囲ってくれてもかまわない」  私が望んだのは、こんな生活ではなかったのに。鬱屈とした想いから解放してくれたのは、一見残酷にも聞こえる義理の娘の言葉だったのです。 「こんな結婚生活にしがみついちゃって、馬鹿みたい。あなた、自分が惨めとか思わないの?」  愛されたいと思うから、苦しいのです。かつての暮らしよりは、遥かにましな生活をさせてもらっていることは間違いありません。だから、諦めればいいのです。  どうせ彼らは他人なのだから。わかりあえなくたって、仕方がありません。世の中には、どうしようもないことだってたくさんあるのです。  理解してしまえば、それは目の前がさっと開けるような心地がしました。
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