恋する夏日漱右

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 我が輩、猫なのだ。  名前はまだ無いのだ。  どこで生まれたかトント見当がつかないのだ。なんでも薄暗いジメジメした所でにゃんにゃん泣いていたことだけは記憶しているのだ。  どうかな?かなりいい出だしだと思わないかい?  え?読んだことがある?この作品を?   これは昨日書き上げたんだよ。まさか君、無断で僕の作品を読んだのかい?勝手に僕の原稿を読まないでくれよ。たとえ知り合いでも盗作される可能性はゼロじゃないからね。まあ君のような女性が盗作するとは思っていないけど念のため。僕の作品を読むときは一声かけてほしい。  僕の作品は読んでいない?どういうことだい?僕の作品を読んだことがあるのに僕の作品は読んでいない?とんちか何かかな?  正確にはこの作品に酷似しているものを読んだ?それは本当かい?それが事実なら大変なことだよ。それはいつどこで読んだんだい?  子供の頃図書館で?君の子供の頃って30年以上前だろ?作品自体は明治に書かれたはず?今令和だよ。相当昔じゃないか。冗談はやめてくれよ。  夏目漱石?知ってるよ。あの『坊ちゃん』『三四郎』『それから』『こゝろ』などで有名な小説家だよね。うん、そりゃあもちろん知ってるよ。小説家ならマストな知識じゃないか。ちなみに君が読んだその作品のタイトルってまさか『吾輩、猫なのだ』じゃないだろうね?違う?『吾輩は猫である』?ふぅん。ということは明治の文豪が僕の作品を盗作したということか。  一つ分かったことがある。  夏目漱石は間違いなくタイムトラベラーだ。  間違いないよ。絶対そうだよ。それ以外に考えられないもの。  熱くなってごめん。まあそんなことはどうだっていいじゃないか。  それにしても、今宵は月が綺麗だね。  曇ってて見えない?本当だ。    
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