<1・であう。>

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 ***  捨てられの森は、中央部分に町がある。ぐるりとカズマの木々に囲まれた状態の町は、いわば天然の要塞に守られていると言っても過言ではない。森を無事に抜け、森の中の町と森の外の町を行き来できるのは森に認められた住人達だけなのだった。  森の中の世界を、インサイドと呼ぶこともある。外はアウトサイド。町に名前はついていないが、これもインサイドの町、なんてなんとなく呼ばれることが多い。  アウトサイドの人々は、インサイドの町の存在を知っていてもまず森そのものに近寄らない。近寄るのは、森の入口にゴミを捨てようと考えている人間だけだ。アウトサイドの人々と取引をするためには、インサイドの住人が外に出て行く必要があるのだった。もっともアウトサイドの人々はインサイドの住人を見下しているので、まともな取引をしてくれる商人や企業はそう多いものではないのだが。 「ういー、ただいまー」  ジムが自宅に戻ると、二人の同居人が出迎えた。 「あ、ジムただいま。キノコ採集終わったの?」  長い銀髪の――現在は美女の姿をした男、リーアが椅子に座ったままひらひらと手を振った。美女の姿の男とはいうが、別に女装趣味があるわけではない。彼はミアドールというモンスターで、様々なモンスターや人間への変身能力を持つのだった。ただし、リーアはその能力が限定的で、絶世の美青年か美女にしか変身できないという謎の欠陥を抱えている。そのせいで、一族から捨てられてこの森に来たのだった。 「何?ジム、ゴラルが見たことがないものを連れている」  低い声を出し、そのリーアの後ろかあぬっと顔を覗かせたのは、灰色の肌の肉体を持つ大男のゴラルだ。彼もモンスターである。リーアと比べて、いかにも人外な姿をしていると言えるだろう。なんせ肌がごつごつとして硬く、全身岩のような肉体を持っているからだ。  彼も、ゴーレムという種族にいながら、欠陥品として捨てられの森に追放されてきたメンバーである。何故なら、怪力と防御力が自慢のゴーレムにも拘らず、ゴラルは生まれつき防御力しか持ち合わせていなかったからだ。通常ゴーレムは人間の十倍以上の怪力を持っているのが普通なのに、ゴラルは一般的な成人男性並みのパワーしかない。圧倒的防御力はあっても、攻撃力がほぼ皆無なのである。ゴーレムの仲間たちと足並みを揃えることができなかったというわけだ。  まあ、このインサイドの町にいるのは、そんな捨てられた人間かモンスター、あるいは追放された犯罪者(ただし、国の基準での犯罪者、なので本当に悪い奴とは限らない)ばかりなのだった。  ジムのように、種族の違う二人の仲間と家族のように同居している者も珍しくはないのである。 「ああ、やっぱり気づいたか。そ、今日もキノコ狩りついでにゴミ回収に行ってきたらさ……今日はこいつが捨てられてたわけだよ」  ほれ、とジムは、蓋部分をとっぱらった段ボールの中に入れたスライムを二人に見せたのだった。スライムは蓋がなければ落ち着くのか、段ボールの中に入って大人しくしている。くりくりの黒目が、なんとも可愛らしい。
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