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「世那君、あいつとお出掛けですって?」 「聴いてたのか?」 「キーキーうるさいから聴こえるわよ」 放課後部活で美術室に寄ると青葉が居た。 俺と同じでこいつも美術部、て言っても放課後の美術室なんてたまに行く俺とこいつしか居ないんだけどな。 「ていうか世那君まだ部活なんか行ってたんだ?」 「お前がそれ言うか?」 「まぁ気分転換よ」 「俺だって別に帰ってもやる事ないし」 前に描いてた絵はこいつにボロボロにされたもんな。 「やる事ないんだ? あいつとのデートに何着てこうかなぁ? とかそんなの」 「普段通りだよ、それともそんなんで悩んで欲しいのか?」 「なんて言うかな、惚気たら死ねって思っただけ。 ごめん死ねは嘘、どっかで痛い目見ればいいわにしとく」 青葉はそう言って乱暴に椅子に座った。 「なんだよ?」 「特に何も。 気晴らしに世那君でも描いてみようかな」 「それで気晴らしになるなら描けば?」 青葉は「ふん」と息を吐きキャンバスを持って来て俺の前に座った、そして大きな目でジーッと見られる。  だが描き出すのかと思いきやキャンバスの上に腕を置いて顔を乗せそのまま俺を見続ける。 そんな青葉に構わず俺は自分のキャンバスを見つめた。 来てみたは良いものの何を描くか定まらないし目の前に居る青葉が「うーん」とか「あー……」とか言うから気が散って仕方がない。 「なんだよ、俺のこと描くんじゃなかったのか?」  「うん、でも私絵下手なんだよねぇ」 「美術部なのに?」 「それ関係ある? 世那君は絵心あるの?」 「そんなつもりはないけど」 「ほらそうじゃん」 青葉は見てるだけでは飽きてきたのか俺にちょっかいを出してきた。 額を突いてきたり俺に椅子ごと近付いて脚を当ててきたり…… 「描きにくい、やめろ」 「なんにも描いてないじゃーん」 「気が散る」 「散って結構、ていうか私が居るのに絵の方に集中してるっておかしくない? 私が居るのに!」 「あのなぁ、お前が居るからっていつでもどこでもお前に集中してたら他のこと手につかないだろ?」 俺の言ったことがムカついたのか青葉は俺の足を踏んで親指の爪を噛む。  本当はこんなに喜怒哀楽が激しいのにクラスではクール…… というかひたすら無関心で一匹狼キャラだもんな。 まぁ俺もそんなに人のこと言えた奴ではないが。 「それよりあいつとお出掛けするのは千歩譲ってまぁ良しとしましょう。 けどね、わかってるわよね?」 途端に青葉の目にハイライトがなくなっていく。 わかってるよ、またあんなことになるのはごめんだし青葉も今までを考えると斉藤と仲良くされている?方だと思うし。 「わかってるって。 俺は青葉のことが好きだし」 「あいつのこともでしょ?」 「…… まぁそうだけど」 「ちッ!!」 また足を踏まれた。 それから週末になり斉藤との待ち合わせの場所に着くと斉藤はもう着いて待っていたみたいだった。 「新庄君、今日は無理言ってごめんね」 斉藤はいつも学校の時は化粧はしてなかったが今日はうっすらとメイクしているようだった。  「えっと…… な、何か変、かな?」 「あ、いや別に変じゃないよ」 「そっか、良かった」 ほんと青葉と対照的だな、青葉とは何回かこうして出掛けたことはあるけど派手な格好とメイクで最初は少し驚いたが斉藤は落ち着いた格好をしている。  「それでこれからどうすんだ?」 「んとね…… 一緒にバイク乗りたい」 「え? そんなんでいいの?」 「とりあえず…… あ、ダメならいいよッ? 私重いかもしれないし新庄君また事故っちゃったら1番嫌だし」 「………」 「新庄君?」 俺は少し笑っていたらしくて斉藤はそんな俺を見て不思議そうな顔をする。 青葉とは対照的だけど青葉と斉藤は結局は似たような結論になるんだったな。 「いいよ、多少重くても2人乗り出来るバイクだし」 青葉のせいでヘルメットふたつ持つようになってたしな。 ない時はあいつノーヘルで乗りやがるけど…… 「あ…… あの」 斉藤の顔がいきなり赤くなった。 「ん?」 「お、重いかもしれないって言ったのは言葉の綾で実はそんなに重くない…… ううん、平均っていうか」 「ああ、そんなことか。 気にしてないから乗れよ? 考えてみればこんなド田舎で歩きじゃキツいもんな」 そう言うと斉藤は少しむくれて俺が渡したメットを受け取る。 何か気に触るようなこと言ったか俺? それから斉藤をバイクに乗せてド田舎の田んぼだらけの道をしばらく流して走っている。 青葉はバイクに乗るの好きみたいだけど斉藤はどうなんだろう? もう寒いし風が気持ちいいっていうよりかは痛い。 「寒くないか?」 「とってもあったかいよ」 「マジで? お前って意外と寒いのに強いんだな」 「そ、そういうことじゃないんだけどな」 「え、じゃあどういうこと?」 「それは…… 新庄君が暖かいからで」 「ああ、バイク乗るから厚着だしな」 「もぉー……」 そして街の方までバイクで行き少し斉藤の買い物に付き合って今日はお開きになる。 「もうすっかり暗くなったな、お前の親心配してんじゃねぇの?」 「大丈夫大丈夫! 私楽しかったし」 「全然大丈夫な理由じゃねぇぞそれ」 「変な人とお出掛けじゃないし新庄君だし…… ねえ、また私とこんな風に遊んでくれる?」 「いいよ、こんなんで良かったら」 「やったぁ! じゃあ約束だよ?」 そう言って斉藤は何度もこちらに振り返り帰って行った。
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