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「まず今のアナタは魂だけで、人間界にあるアナタの肉体は今、死にかけているわ」 「魂……? 死にかけの肉体?」 「そして、今アナタが立っている場所。そこは生者側、そしてこの川の対岸が死者側。つまりまだ死んでいない」  少女は足元を見た。石がたくさんあるだけで“生”を感じさせるものは何もない。本当に生者側なのかも疑わしく思える。 「だったら川を渡らなければ死なないってこと?」 「順を追って説明するから黙ってなさい」 「はい」 「それでもうすぐ川を渡るための船がくるからそれに乗りなさい。ここはアナタだけの船乗り場。どこまで歩いて行ってもここから出られないわ」  少女は改めて周囲を見回した。景色は最初に気がついたときと変わりない。それは殺風景だからではなく、ずっと同じ場所をぐるぐると歩いていただけだったのかもしれない。 「船?」  昔、聞いたことがある。三途の川には渡し舟があってその舟に乗るための“六文銭”を死者と一緒に火葬するのだとか……。 「そう。生前に、善行を積んだ者が新たな生命に生まれ変わるために極楽浄土へ向かうための船。アナタには乗船する資格があるから船が来るわ。逆に悪行を行った者に来るのは鬼。川の底からおっかない鬼がやってきて地獄へ連れて行かれる」  少女はウナギの言葉につられて川をみた。淀みのない水だがじっとみていると心の底が寒くなる。    少女が青ざめたのを見たウナギはクスクスと冷たく笑った。 「さっき船に乗らなければと言っていたけど、船に乗らなかったときも同じように鬼が来るわ。地獄の業火で魂を焼かれ続けたければどうぞ?」  地獄の業火がどれほどのものか皆目見当もつかない。しかし、地獄のものとなれば物凄く熱い炎なのだろうと想像してしまう。  そんな思いはしたくないと少女は頭を振った。 「いやいやいや! 地獄なんか行きたくないし、鬼にも会いたくないから」  必死に拒否した少女をみたウナギが今度は可笑しそうに笑った。
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