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少女は甲板に立った。船の外は見渡す限り、どこまでも川と霧と川原が続いている。「たしか、賽の河原って呼ばれていたっけ。ホント、何もない殺風景で寂しい場所」
船がゆっくりと動き始め船首が霧の奥を向く。オールで漕いでいるわけでもなく、ましてやエンジンも搭載していないのに川の流れを無視して、川を横断していく。
「ウナギさんの言う通りに船にのったけど……このあとどうしよう」
贅の限りを尽くした豪華客船での優雅な旅とは行かないが、歴史を感じるこの船の乗り心地も悪くなさそうだ。川の流れは穏やかで、船揺れは全くない。船酔いの心配もしなくていいし、遊覧船顔負けのパノラマビュー。唯一欲を言うなら景色の変わり映えがないことだ。霧のかかった川だけじゃすぐに飽きてしまう。
離れていく川原を見ていると背後からチリンチリンと鈴の音が聞こえてきた。
「乗船ありがとうございます」
頭から足まですっぽりとボロボロの布を被った人がいた。声は幼い印象で中性的。目のところに開いた穴からはボンヤリとした虚ろな目が覗いていた。
「アナタは?」
異様な出で立ちだが、不思議と警戒心はなかった。少女は彼の目を真っ直ぐ見て尋ねる。
「私は案内を仰せつかっております船頭です。アナタの極楽浄土までの旅のお世話をさせて頂きます」
「極楽、浄土……。本当に行くんですか?」
「はい。この船の行き先は極楽浄土のみです。この船に乗船していただいた方を極楽浄土へ案内するのが私の役割です」
「そう、か……」
船頭は反対を向くと「どうぞこちらへ」と少女を促した。足下は布で隠れていて見えないが、その足音から履き物は履いてないようだ。少女は案内に従ってあとに続く。
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