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 20XX年9月28日。君はこう思っただろう。「一体どうなっているの?」と。  鐘がなり始める。  事の発端はとある日本の科学者が作り上げたAI『ノウナイ』だ。海外では『In the brain』やこの功績に嫉妬した誰かがネット上に呟いた『no brain』という名称で呼ばれている。  これは所謂学習するAIという代物で、情すら持ち合わせている。見た目も年々改良されていて、最初は無機質な機械そのものだったが、今や人間の姿になり、肌の無骨さを確かめなければ機械か判断することもできなくなってしまった。肌の生産はコストが見合わないらしく、肌色の色素で金属を誤魔化している。  そして今、人類の仕事の7割はAIで代替できる時代になった。『ノウナイ』は大量生産され、店に配備されている。完璧な接客、にこやかな笑顔、真摯な謝罪。全てを120%で行うAIが仕事の覇権を握るのはそれ程遅くなかった。  しかしここで1つ誤算が生まれる。人間の仕事が極端に減りすぎてしまった。街は失業者で溢れかえり、パンの配給で1日を耐え凌ぐ人もいる。楽を求めて開発された『ノウナイ』は今や人々の1番の悩みとなっていた。 当然、開発した科学者にも、憎しみが込み上げて来るだろう。 「次、入れ」 「ハイ」  曇天の夜9時。俺は扉を開ける。金属臭い、というより血なまぐさい。 「……っ!」  その原因はすぐに分かった。床に投げ捨てられた死体と目が合った。全身の穴という穴から赤色が垂れ流されていて、気の毒だな、と思った。でも俺は動揺してはいけない。動揺した瞬間、みたいになるからだ。 「型番663-12。意外と新しいタイプだな。おい、何か挨拶してみろ」  俺は呼吸を整えて、一世一代の演技を始める。顔は柔和に、手足は適度に硬直させ、無機質に。呼吸は不自然な位に少なく、目は瞬きを極限まで削ぎ落とす。声はトーンを一定に、早くも無く遅くも無く、一定を保つ。  さあ、やろう。 「ハイ、ハジメマシュ、シテ」  あ、死んだ。
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