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「それでは、任務の完遂と悪名高き博士への天罰を願っているよ」  そんな機械顔負けの無機質な言葉で解散になった。 「型番663-12さん、でしたっけ」 「ハイ、アッテイマス」  依頼主からホノカ、と呼ばれていた人間は少し俺から距離をとって隣を歩いていた。どうやらこれからの1週間は2人で行動するらしい。 「コレカラ、ヨロシクオネガイシマス」 「ああ、いいんですよ?人間の言葉使っても。ねえ、AIもどきさん」  俺は思わず瞬きをしてしまう。彼女はくすくすと笑って、頬を思いっきり抓ってくる。 「思いっきり人の温もりでしたよ。それも36℃。平温中の平温ですね……。AIは熱が常に篭っていますから、40℃がデフォルトなんですよ」 「……やっぱりバレてたか」 「よくあれでバレないとか思ってましたね……依頼主の選定目はハリネズミに串刺しになってしまったんでしょうか」  そうやってケロケロと笑っている彼女は、俺の肌をツンツンと触る。ちょっと、ほんのちょっとだけ、イラッとした。 「そういう君も、人間を演じているみたいだし、同じ立場じゃないかな?」 「……意外と目ざといですね」 「いや、身体触っただけで俺の体温分かったし、こんな美人がAIじゃなかったらもっとマシな仕事してるだろうなって思った」 「そりゃどうも。まあバレますよね」  ホノカは部屋に入った時から、呼吸音がなさすぎた。瞬きの回数は0。違和感の塊が過ぎた。 「もしかして貴方って意外と凄い殺し屋なんですか?」 「AIなんて物が無ければ、少しは歴史に名前を残す位にはな」 「じゃあ今は役立たずですか」 「うーん傷つく」  冬の寒さが今になって俺の体に届いてきた。AIを演じる人間と、人間を演じるAI。こんな2人が一緒に仕事をする。摩訶不思議な現代でも、こんな経験は中々無いだろう。 「まあ仕事の完遂までどうぞよろしくお願いしますね。AIさん」 「こっちこそよろしく頼むわ。ホノカ、じゃなくてちゃん」  ホノカが何故人間の演技をする事になったのか、それが分かるのは、全てが終わったあとだった。
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