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「ニシダケイゴ。歳は72歳。今はAI『ノウナイ』の特許で悠々自適な生活中。警備は殆どなし……これ、勝ったも同然では?」
「うん、勝ったな」
カフェのテラス席で2人して勝利宣言する。昼食は俺が奢ると言ったが、ホノカは「私AIなのでガソリンがいいです」と予定していたランチ代の5倍のガソリンを要求してきた。
「AIがガソリンって……もっと燃費がいい物無かったのかよ……!」
「実際に、地球温暖化は私達AIの登場で毎年50%加速しているらしいです。地球の破壊者のバトンは人間からAIへ……」
「いや、人間もまだまだいるんだから共犯者みたいなもんだろ」
ホノカはファストフード店で買った紙コップの中にガソリンを入れてストローで飲み込んでいる。「かあ、美味しい!」とはしゃぐ姿は最早中年のおっさんみたいだった。
「それで決行はいつにしますか?できる限り早めに終わらせて、ガソリン買い占めて石油王になりたいのですが」
「それが流行りのAIジョークか?人間みたいで笑えねえよ。あとここでガソリン飲むな。折角の珈琲が不味くなるだろ」
「それに」と前置きして、
「あの博士の暗殺を企てた奴は3桁じゃ効かないらしい。それで今も博士はピンピンしている。つまり、明らかな罠があるって事さ。本来ならその罠をあの依頼主が調べておくものなんだが、使えねえなあ」
「まあ私達の依頼主、私は前々からNo.2として仕えて来ましたけど、ちょっと頭が足りないですからね。やる時はやる人なんですけど」
俺は煙草に火をつけて、煙を吐き出した。
瞬間、ホノカが噎せ出した。
「ちょっと煙草やめてくださいよ!気持ち悪い……ガソリン吐きますよ!」
「へいへい、悪かったよ」
煙草を灰皿に押し付けて鎮火する。煙が蜘蛛の糸のように細く、空へと消えていった。
「その反応、煙草が苦手な事知ってましたね!?」
「AIに感覚を与えた博士を恨むんだな」
他愛もない会話のその後は大まかな段取りと家の間取りの確認をして、集合場所を決めた。
「じゃあ3日後に、AIもどきさん」
「ああまたな、人間もどきちゃん」
互いを揶揄する言葉。それに嫌悪感を持たないのは既にホノカを信頼しているのか、それとも別の理由か。まあどうでもいい。
あと数日で分かたれる2人だ。余計な情は自分の命を危険に晒す事になる。死ぬなら最後に老衰で。俺のポリシーだ。
「AIに情なんざ湧くわけねえか」
煙草をもう一本取り出す。火はつけずに、そのまま唇でくわえたままで。
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