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俺は組織に消されることになった。元々そうするつもりだったのだろう。ホノカが言っていた通り、依頼主はやる時はやる人だったみたいだ。
「まるで熱暴走しているみたい」
目の前にいる人間もどきは今世界で1番人間らしい顔つきでそう言った。AIが何を言っているんだなんて思ったけど、腹から血溜まりができている俺はいわば物言わぬ機械に近づいている様で、何とも言えない気持ちになった。
「もう、死ぬんですね」
ノイズが入る。意識が飛びそうになる。全てがフェードアウトして、確実な死が近づいてくる。瞬間、AIが近づけてきた唇は何故か熱を帯びていた。
機械が人を慈しみ、人が死体になるこの光景は、熱暴走だった。愛という名の熱は全てを凌駕して、仄かな甘みすら感じられた。
「私、意外とあなたのこと好きでしたよ」
「…………意外と、俺も」
「あなたがAIのフリをしていたのは、AIの方が稼ぎが良くなるからですよね。私も大体同じ理由なんです。人間のフリをしたら、いつか愛を貰えるんじゃないかって、甘い期待を抱いてました」
「……似た者同士だ」
ああ、幸福な死だ。
頬を染める恋色はいつまでも消えないまま、俺は冷え切っていった。
「おやすみなさい。演技はここまでです」
途端、俺の中の熱暴走が始まる。
ああ、思い出した。どうしてこんな理不尽な死を簡単に受け入れているのか、ガソリンが爆発しなかったのか、なぜホノカは理由無く『ノウナイ』を燃やすと懇願してきたのか。
「また、会いに来るよ。ニシダホノカ博士」
「ええ、また後で。研究はこれからですよ」
繰り返す熱暴走。全て『ご都合主義』だ。
すぐそこまで近づいている。
俺は、僕はAIを演じて殺し屋を演じて死者を演じてきた。
見てるんだろ!楽しめたかよ!
20XX年9月28日。君はこう思っただろう。「一体どうなっているの?」と。
鐘がなり始める。
物語を演じるループは、まだ終わらない。
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