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「……と、いうことがあったの」
宣言を受けてから翌日の昼休み、私は向かい合わせに座っている友人の冴原奈智に昨日のことを話していた。
私の話を聞いていた奈智は、しばらく固まっていたが両手で口を覆い、いきなり立ち上がり叫び始めた。
「きゃああああ!!何その展開!!どこの少女漫画!?しかも「王子」と呼ばれている結条君と放課後に二人っきりなんてとびっきり美味しいシチュエーションじゃない!!ご飯!ご飯もう一杯ちょうだい!!」
「な、奈智!大声出さないで!」
「はっ!ごめんごめん、つい興奮しちゃって……」
注意された彼女は興奮した感情を落ち着かせ、席に座った。
少女漫画が大好きな奈智にとっては、昨日の話は興奮するほどの好きな出来事だったようだ。
「つまり、状況を整理すると一香は教室の窓から憧れの時山先輩がまさかの彼女持ちで失恋して泣いていた。で、泣いているところを偶然結条君が見てしまって、その後「心を盗みます宣言」されたわけね」
「真剣な表情で振り返られても凄く恥ずかしいんだけど……」
私は顔を赤らめもごもごと小さな声で呟く。
彼女の言う通り、私には時山颯という男性の憧れの先輩がいたのだ。
彼とは委員会が一緒ということもあり、よく委員会活動の時は話をする機会があった。
人当たりが良く頼もしいところもあり、何より時山先輩の笑顔が私は好きだった。
しかし、昨日の放課後に先輩に恋人がいたことを知ってしまう。
教室の窓から見えた先輩と茶色の長い髪を揺らしスタイルの良い女性が手をつないで正門に向かう姿。
あの光景を見た時は、私の胸はとても苦しく感じたのだった。
「でも良かったじゃない!あの結条君が声をかけてくれるなんて!あんた本当にラッキーだよ!」
「……彼のことよく知ってるの?」
「えっ!?あんた知らないで宣言受けてたの!?」
「知らないというか体育で見かけるぐらい……何か問題?」
「問題大アリよ!?」
私が首をかしげると、奈智は酷く驚いた顔で私を見た。
そんなに彼は有名なのか。
怪訝そうな顔を浮かべる私に、彼女は「ウオッホン!」と咳払いをし得意げな表情で口を開く。
「しょうがない。ド真面目勉強一筋な一香に説明してあげようじゃないか!」
「そのド真面目で勉強一筋は余計だからやめてくれる?」
「まあまあ、細かいことは気にしないの」
ド真面目で勉強一筋を強調してくる奈智に私は不満そうな顔を浮かべる。
確かに、私は勉強しかできないがそこまで一筋ではない。
いろいろ言いたいことはあったが、奈智は聞いてくれないだろう。
「では、改めて説明しよう。彼の名はーー」
「結条未涼。隣の2年3組にいる地味に身長がでかくて、料理研究部に入ってる奴のことだよ」
「そうそう地味に身長がでかくて料理研究部に……って結条君!?」
間に入ってきた人物に、私達は目を驚かせた。
焦げ茶色の髪を揺らし、透き通った水色の瞳をした高身長の少年が私達を見下ろしている。
そう、彼こそが昨日私に「心を盗みます宣言」をした結条未涼くん本人だった。
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