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「昨日ぶりだね、花染さん」
「ど、どうも……」
私は青い瞳を彼に向け、軽く会釈する。
やはり奈智の言う通りなのか、教室にいた女子たちは結条君を見て顔を赤らめたり、小さな黄色い声を上げている子がいた。
「仲良く話しているところごめん。少し花染さんと話したいんだけどお借りしても大丈夫かな?」
「えっ、用があるならここで話せばいいじゃ」
「一香」
すると、奈智は私の言葉を手で遮る。
きょとんとする私を見て彼女は目を細め、結条君に向き直ると笑顔で口を開いた。
「どうぞどうぞ!是非うちの娘を連れて行ってくださ~い!」
「ちょっ!?」
私の返事を聞かずに、奈智は結条君に連れて行くように促したのだ。
勝手な許しを得た結条君は、にこりと笑顔を浮かべていた。
「ありがとう。花染さん、すぐ終わるから廊下行こう」
「なっ!?私はまだ何も言ってないよ!」
「いってらっしゃ~い」
「奈智……!」
吞気に見送る奈智を見て私は彼女を軽く睨むと、仕方なく結条君の後を追った。
昼休みなのか、廊下には他の生徒たちが集まって雑談している声で賑やかだった。
その中、私は教室の前で待っている結条君の所まで歩いて行く。
「それで、話って何?」
「そ、そんなに警戒しないで!これを渡しに来ただけだから」
「これ?」
すると、結条君はポケットからあるものを取り出し私に差し出した。
差し出されたものに私は「あっ」と声を漏らす。
手のひらには、私がいつも髪を結うときに使う淡い水色のシュシュだった。
「これ、失くしたかと思った」
「よかった。教室で話した後、花染さん猛ダッシュで出て行っちゃったから渡しそびれたんだ」
「そういえばそうだった……」
昨日の様子が脳裏に蘇る。
結条君にあの宣言をされた後、私は恥ずかしさのあまり彼を置いて教室から走って逃げたのだった。
そこでシュシュを落としてしまったのだ。
私は結条君からシュシュを受け取ると、彼の顔に向き直る
「ありがとう」
「どういたしまして」
私が礼を言った後、結条君は笑顔を浮かべていた。
「あとさ、念のために言っておく」
「念の為?また何かあるーー」
聞き返そうと瞬間、私は彼の行動に体を固まらせた。
気づくと結条君の顔が私の耳元まで近づいていたのだ。
そして、彼は小さな声で囁くように言う。
「昨日言ったこと、俺本気だから」
「!」
その一言を言った後、結条君の顔は私の耳元から離れる。
何が起きたか分からず、私はすぐに反応ができず茫然と立ち尽くす。
「じゃあ、また放課後!」
彼は笑顔を残し、私の前から隣の教室へと去っていく。
廊下に取り残された私は、ただ彼の背中を見送ることしかできなかった。
「あれ?もう終わったの?」
廊下で結条君が去ったところを見かけた奈智は、気になったのか教室から出て私のところにやってくる。
奈智の声で私は我に返り、結条君が今言った言葉を思い出す。
また放課後?
この教室に放課後また来るの?
私は急に接近してくる結条君に戸惑いを感じた。
今後、結条君がどのようにして私を攻めてくるのか。
予想がつかない彼の行動を考え、私は奈智にあることを頼んだ。
「奈智、さっき説明しそびれた彼の詳細教えてくれる?」
「御意」
私の頼みに奈智はニヤリと笑ったのだった。
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