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―願いを、聞いた。その身代りを呼ぶがよい。三日目には日没までに帰って来い。おくれたら、その身代りを、きっと殺すぞ。ちょっとおくれて来るがいい。おまえの罪は、永遠にゆるしてやろうぞ。
―なに、何をおっしゃる。
―はは。いのちが大事だったら、おくれて来い。おまえの心は、わかっているぞ…
「…………あー、ごめんなさい、もういっかいやらせて」
「えー、良かったですよ?」
メロスが慰めるようにそう言うが、いくら暴君とてその心の内くらいは知れる。
脇役風情が偉そうに拘りみせてんじゃねえよ。
いくらなんでもそこまで辛辣ではないだろうが、事実この舞台は彼で客を引くだけのものであって、俺の演技の出来などは売り上げに一切の影響はない。
しかしだからこそ、顔で売れないからこそ、仕事にはある程度の拘りを持たなければならない。彼にとってはただのステップだろうが、俺はこの高さで生きていかなくてはならないのだから。
オメェと違ってヘタクソだと食っていけねぇんだよ。
などと感じる程、もう若くはないが、
「ごめんなさい、もう一回だけ。本当にごめんなさいね」
今迄の人生、我を通してきた自負はある。
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