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山奥で見たもの
その山に入って数日が経った。
テントなどを一通り揃えて、湖を目指して進んできたが、残りの食料を考えると、あと一日もてば良いだろう。
焦る気持ちがおさえられず、もうダメかと絶望しそうになったその時、
森の間から、不意に湖が現れた。
「ここだ!」
と、思った俺はすぐに湖畔に向かって駆け出した。ここにいればきっと蛇神様が現れるはず。もう、そう信じるしか無かった。
湖畔にテントを張り、湖を見張る。
すがるものはそれしかない。頼む、現れてくれ……。
やがて夜になり、湖面がざわざわと揺れだした。そして……、
「き、来た!!」
湖の中から現れたのは、身体は大蛇、腰から上は絶世の美女。それでいてどこか懐かしい感じのする不思議な生物がいる。
これが蛇神様なのか……?
しばらく対峙していると、まるで心の中に直接語りかけてくるかのように、彼女から語りかけてきた。
『汝はなぜここに来た?』
「あなたが願いを叶えてくれる蛇神様だという話を聞いてきました。どうか私の願いを叶えて欲しいのです」
俺の言葉に、彼女は表情を変えずに続けた。
『汝の願いはなんだ?』
「つ、妻の病気を治して欲しいんです。もうあなたしか頼るものがないんです」
『そうか、しかし願いを叶えるにはそれなりの代償がいる』
「代償とは?」
『妻の病気を治して欲しいと言ったな。ならば……、お主から大切なものを一つもらう。いや、盗むと言った方が良いかな』
「その大切なものとは?」
『それはこちらで選ばせてもらおう。さあ、どうする?』
これは迷った。私には妻以外に大切なものなどあるはずが無い。しかし彼女の病気を治すのだから、何を盗むと言うのだろう。
しばらく考えた末に、
「わかった、だそう」
『よろしい。ならば取引成立だ。急ぎ家に戻られよ』
「ありがとうございます」
こうして蛇神様との取引を成立させた俺は、病気を治すと言う言葉を信じて、自宅へと急いだ。
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