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「あっ」
女性の小さな声が瑞希の時を再び動かした。
彼女が胸ポケットにしまっていたボールペンに手をかけ取り出そうとした瞬間、まるで冷たい流水のように女性の手の甲を滑らかに伝い、地面に落下したのだ。
「拾わなきゃ」
そう思って瑞希は屈み、やや遅れてその女性もボールペンを拾うために屈んだ。2人は同時にそのボールペンに触れた。
「ありがとう」
女性は少し微笑みながら瑞希にお礼を言い、足早にその場を去った。
瑞希は小さくなっていく女性の背中をぼんやりと眺めていた。
「つーきちゃん!」
同じブレザーの制服を着た、少し赤みがかった髪色をしたポニーテールの女子高生、上野奈々美が瑞希の背中に抱きつく。2人はこの春、東京都の中ではもちろん、全国的にも有名トップ進学校である東京第三地区高等学校に入学した。
「わーもうビックリしたなぁ」
「あはは。だって月ちゃんぼーっとしてるんだもん」
「あの女の人みたいに髪の毛いーっぱい伸ばしてなびかせたら大人な女性になれるかなって」
「えー? 月ちゃんショート似合ってて可愛いのにー。でもあれ位の長さなら2–3ヶ月でなれそうだけど」
「いやいやいや、少なくとも半年は必要でしょ」
「そっ……かな?」
菜々美は少し首を傾げながら瑞希の髪の毛を見つめる。
(月ちゃんてそんなに髪の毛伸びるの遅かったっけ?)
2人は北口改札を通過し、ホームに向かって歩き始めた。
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