Prologue. what is that?

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Prologue. what is that?

 キィと扉が軋む音。  桐原瑛人(きりはらえいと)は暗闇の中で、ビクリと身を縮めた。教室入口の引き戸から一筋の光が生まれ、ゆっくりと広がっていく。悲鳴を上げないよう震える腕で自らの口を強く塞げば心音が体の中でやけに大きく響き渡り、その音が目の前を通る異形に伝わらないか、気が気ではなかった。  異形。  それは正しく異形。  眼の前の光を黒く侵食し、浮かび上がる毛むくじゃらの影。  フウフウと荒い息を吐くそれが瑛人が隠れる机の前を通った時、危うく意識を手放しかけたのは口元を強く抑える手の作用だけではなかっただろう。  瑛人が最初にその鋭い雄叫びを聞いたのは数十分前、下駄箱に向かっていた時だ。補講で居残りをしたその帰りだ。  何事かと顔をあげると、真正面の廊下の先に黒い影が蠢き、次の瞬間、猛然と瑛人の方に向かって駆け込んで来た。時刻は十七時半、秋の夕は釣瓶落とし。その言葉が示す通り、既に廊下は薄暗い闇に沈んでいる。彼我の間に横たわる昇降口前のスペースだけが、差し込む西日に染まって赤い。その朱色に影が足を踏み入れた時、その手に持つ何かが銀色に煌めいた。瞬間、瑛人は踵を返し、脱兎のごとく逃げ出した。その煌めきが刃物にしか思えなかった。  瑛人は空き教室に逃げ込み、息を潜め、そっとその何者かの足音、もっと言えば学校内で何も物音が聞こえなくなるまで身じろぎもせずに過ごし、夜の帳がすっかり降りきった頃に震えながら帰宅し、警察に駆け込もうとしていた両親にこっぴどく怒られた。
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