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「まずはお前が見たっていう昇降口あたりか」
「……ああ」
一哉の隣で瑛人の喉がゴクリとなった。恐る恐る、昇降口に近づく。けれども異常はない。生徒の姿もない。用事がなければすぐ帰るよう、重々に言われている。その全く人気がなく紅と黒で染め上げられた廊下は、狼男を信じていない一哉の目にも、やはり異界の用に見えた。
そして昇降口を通り抜け、一番奥の西階段を登って二階を反対側の東階段まで歩き、三階を東から西に通り過ぎ、瑛人は心臓をばくばくさせながら一階に降り、恐る恐る廊下に顔をのぞかせる。けれどもそこには何もいない。ホッと胸を撫で下ろす。その頃には空は一段と暗かった。
北校舎はこれであらかた探検した。南校舎は違う学年が使っている。
「何もいなさそうだ」
「……今はいないだけかもしれない」
「そうだな。次の先生の見張りが終わるまで、また静かに隠れていよう」
「突き合わせて悪いな。一哉。いてくれて本当、心強い」
「……仕方ない」
瑛人は自分が見たものの真実性は揺るがないものの、それが他人が信じるかは別物だということはわかっていた。それでも一哉がついてきてくれたことに感謝していた。
次に見回るときはもうすっかり日は落ちているだろう。一哉にはそんな予感がする。けれどもそうなれば非常灯がつくだろうから、真っ暗にはならない。
そして昇降口に差し掛かろうとした時だ。未だ僅かに淡い夕陽を塗りつぶすように影が二人の前に伸びた時、瑛人は思わず立ち止まり、懐のナイフを構えた。
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