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それは逆光を背に浴びてその全てを真っ暗な影に沈めていた。
「瑛人、あれがそうか?」
一哉は戸惑っていた。狼男がいるとは思っていなかったからだ。一哉は自らの計画の狂いとその修正について素早く考えているうちに影が揺れ、狼男は一歩をこちらに踏み込む。
シルエットからは刃物は所持していない。隣ではガタガタと瑛人が震えていた。
「瑛人、このままだとあいつは襲ってくる」
一哉の隣でビクリと瑛人が揺れた。そして一哉は耳打ちした。
「瑛人、刃物を持ってないみたいだけど、襲ってくるかな」
「巻き込んでごめん、一哉」
極度の恐怖と緊張が決壊した瑛人は、隣で叫びを上げて影に向けて飛び出した。その姿はおそらくたくさんのカメラに収められ、暗闇に吸い込まれていき、そしてグウという音の後に静寂が訪れた。
一哉はゆっくり歩き、昇降口を越え、そして再び山に辿り着けば、そこには瑛人が床に倒れ、狼男がその被り物を脱ぎ捨てるところだった。
「やっぱり翔か」
「ああ。お前に見張りにこいと言われたからな」
「何故狼男の被り物を? まさかカメラに映ってないだろうな。話がややこしくなる」
「まさか。だからここで立ってたんだよ。それより何故瑛人はナイフを持っている?」
一哉は瑛人の隣で転がるナイフを拾い上げる。
「それは勿論、自衛のためだ。瑛人は狼男に襲われたと思い込んでいるからな」
そうして一哉は拾い上げたナイフを翔に突きつけた。
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