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1.what r u talking about ?
「本当だって! 本当に見たんだって! 狼男!」
「てめぇ桐原、いい加減にしろよ」
ホームルームが始まる少し前、瑛人は中里翔に食いかかっていた。瑛人と翔が揉めるのはいつものことだが、今日は一段と酷い。特にその内容のせいで、級友はみんな遠巻きに眺め、関わり合いになることを避けている。
いがみ合う二人の間で、相馬一哉は溜息をついた。
「そろそろ落ち着けよ、二人とも。先生が来るじゃん」
「だって翔が信じないんだもん」
「だから! 翔って呼ぶなって! 何度言えばわかる! 中里って呼べ!」
「そんなんどっちでもいいじゃんか! 見たんだってば!」
「うるせぇ。相馬もこの馬鹿をちゃんと管理しとけ!」
ガラリと教室の扉が開いて教師が入ると同時に、ざわついていた教室は波が引くように鎮まり、其々が静かに席に収まった。その中で、一哉は今の光景について考えていた。
教師が入ってくる時、おそらく厳密に言えばその前の教室の扉が開いた時だ。瑛人は明らかに狼狽え動揺し、確かに何かに怯えたような顔をした。至近距離だからこそ気付ける表情の変化だ。
瑛人と翔、一哉は幼なじみだ。
同じ町内で瑛人の家は定食屋、翔の家は本屋、一哉の家は電気店をしていて、親同士も同じ商店会に所属していたものだから仲が良い。翔と一哉の家は既に商売を畳み、店舗部分を賃貸しているが、現在もその仲の良さは継続している。だから昨夜、二十二時を超えても瑛人が帰らないと聞いて、翔と一哉はいの一番に心当たりを問い詰められたのだ。特に翔は知るわけねぇと答えて親と大喧嘩になった。
確かに小さい頃は四六時中、一緒に遊んでいた。けれども今、関係は変化している。特に翔にとっては。
瑛人は昔から一直線な性格、悪くいえば視野が狭かった。小さい頃ならリーダーシップを発揮しえたとしても、成長すればそれは押し付けがましく、他人の都合を考えていないとしか捉えられない。夢見がちな表現も、今となっては現実を見ることができないと捉えられる。
瑛人に散々振り回された翔は、小学校高学年の時、公然と瑛人と縁を切った。けれども親にとってはそんなものは関係なく、理不尽にも未だに仲がいいものと思い込んでいるのだろう。翔の親には少々古いところがある。
平穏に授業が進み、昼休みに突入する。
途端に翔に食ってかかろうとする瑛人を宥め、一哉は学食に連れ出した。
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