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「一哉は信じてくれるよな」
「俺は見てないからな。狼男なのか?」
「信じてくれないのかよ!」
「そう見えただけの可能性は?」
「どういうこと?」
一哉はなんと説明したものか、と頭をひねる。経験上、一哉は瑛人の発言を否定することが得策ではないことを知っていた。そんなことをすれば瑛人は聞く耳を持たなくなり、酷い悪態をつくのだ。だからなんとかソフトランディングさせなければならない。それは昔から続く面倒な作業だった。
「例えばさ、狼の被り物をしていたとか」
「被り物? たくさん毛が生えてたぞ?」
「ハロウィンで狼男マスクがあるじゃん」
「でも! あれは絶対狼男だ! それに包丁を持ってたんだ!」
「包丁?」
「ナイフかもしんないけど」
一哉はふうとため息をついた。いつしか目の前のミートソースは冷めていた。
「瑛人、狼男は鋭い爪を持ってるだろ?」
「うん」
「なら刃物は持たないんじゃ?」
「でも嘘じゃない!」
今度こそ、瑛人の瞳は明確な敵意を一哉に向けた。
「嘘とは言ってない。被り物男が刃物を持っていた可能性は捨てきれないだろ」
「う……でも本当に」
「可能性の話だ」
可能性という言葉を強調する。
瑛人は朝早くに登校し、担任に昨夜の事情を説明した。つまり狼男が出たと騒ぎ、疲れた声で適当にあしらわれた。担任は昨夜、瑛人の親から連絡を受けて付近を探し回ったそうだ。それなのに狼男など荒唐無稽な話をしても俎上にのらない。人に話を聞かせるには、現実に引き寄せる必要がある。
だから一哉は瑛人を連れ、次の休み時間にうんざりした顔の担任の前に立つ。
「井川先生、瑛人は昨夜、狼男の被り物をして刃物を持った人物に、学校で追いかけ回されたそうです」
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