2.sure, I saw.

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 井川幹生(いがわみきお)は生徒たちを返した後、困惑していた。瑛人の話はあり得ないからだ。 「井川先生がカメラを確認した時は何もなかったんだろう?」 「ええ教頭先生。不審者につながるものは、何も」  今朝、瑛人が学校にいたと聞いた井川は、念のため昼休みに学内の監視カメラを確認した。結論として、廊下を走る瑛人は映っていたが、それを追いかける存在などいなかった。  若い井川にとって、瑛人は扱いに困る児童だった。教室に馴染めず、友人も幼馴染の一哉だけだ。今回のように瑛人が騒ぐ度にその主張を一哉に通訳してもらう関係には、井川は情けなさすら感じていた。それに奇行も多い。唐突に大声で喋り出す。授業中だから静かにするよう言えば大人しくやめるけれども。  保険医の芳山遥香(よしやまはるか)からは病名はつくラインとは聞いたが、両親は医者に診せることを拒否している。  井川は狼男の話を深刻に捉えていなかった。前歴があるからだ。その時は蜘蛛男がいると騒ぎ、誰かのロッカーから映画のポスターが見つかった。だからそのようなものだと思っていた。  けれども刃物となると話が変わる。そして藤井の後をつける者。不審者情報ならば何らかの対策を取らざるを得ない。万一の時、責任を負うのは学校だからだ。  だからもう一度、録画を見直す。コマ送りの画質の悪い動画を。 「井川先生、桐原君は怯えているようには見えますね」 「ええ、けれどもしばらく待っても何も現れない。追いかけられた形跡はない。他のカメラでもです」  井川はモニタを切り替える。  どの映像も画面奥から手前へ走り込む瑛人を正面から映している。左手は教室、右手は窓が映りこみ、死角はない。全ての廊下にカメラが設置されているわけではないが、この廊下を追うならばその姿が映らなければおかしい。  瑛人はいくつかの教室を通過してある教室に飛び込んだ。4時間ほど早回しにして確認したが、瑛人が再び開くまで、その扉に触れる者などいなかった。そしてその時刻は瑛人が家に帰る十五分程前だから、そのまま家に帰ったのだろう。  藤井の映像も確認したが、同じく跡を付ける者はなかった。 「嘘とは言いませんが、桐原の勘違いでしょう。きっと木の影が何かを見間違えたんだ。藤井は人気取りに嘘をつく嫌いがありますしね」 「とはいえ野放しにはして置けない。しばらくは早期下校を義務付けよう」 「物凄く反対されるでしょうね」
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