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「桐原。証明しろ」
「……証明ってどうすりゃいいんだよ」
「狼男を捕まえるか、写真撮ってこい。駄目なら諦めろ」
「おい、翔。流石にそれは」
「そうでも言わなきゃ黙らないだろ、この馬鹿は」
文化祭も終わり、教師による定期的な見回りは継続されているものの、日常が取り戻されていた。人感で点灯する非常灯の設置も検討されているらしく、設置されれば全てが解決するだろう。針の筵のような状況に周囲を睨むだけの瑛人以外は。そこに妙な助け舟を出したのは翔だった。
「本当にいたんだよ。何でみんな信じてくれないんだよ」
「言っても無駄なことはお前の頭でもそろそろ理解できただろ」
「だって本当に見たんだ」
「いなかったって一言言えば、少しはマシになる」
「いたし」
「なら証明しろ、お前もそう思うだろ、相馬」
意図の読めない目で覗き込まれた一哉は僅かに狼狽えた。
一哉も瑛人が平穏な生活を取り戻すには、瑛人が言を翻すしかないことには同意する。一方で、見つからなくても瑛人が諦めるはずもないこともまた、その経験から知っていた。そして自分が知っている以上、翔も知らないはずがない。つまり、何の解決にもならない提案だ。
「他に何かいい案があるのか? 相馬」
「いや……けど、瑛人が真実……狼男に追いかけられたのだとしても、既に現在もこの学校に潜伏しているとは限らない。見つかるものか」
「相馬、その場合は『もういない』んだ」
「もういない?」
「そうだ、前は知らん。だが『今はいない』。桐原、それなら納得できるだろ?」
一哉は翔の意図を理解した。
瑛人が『狼男がいる』と騒ぐから問題になる。どういう方法でも『いない』、つまりこの話が瑛人の口から出なくなれば事態は収束する、のかもしれない。
「翔、お前」
「……親父が糞煩ぇんだよ」
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