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3.what r we searching for?
選ばれた時刻は午後5時5分。
日の入りは16時50分。鮮烈なオレンジ色から僅かな鮮紅色を経て、世界のそのほぼ全てが闇に沈もうとしていた。
「俺が見た時は五時半くらいだったけど」
「うん。でも夕暮れ具合はこの程度だっただろう?」
瑛人は辺りを見渡し、納得したように頷いた。
瑛人が狼男を見たのは既に一ヶ月以上前のことだ。日の入りの時刻も1時間弱ほどずれている。瑛人は一度見ただけで、その出現条件は不明だ。同じ時間で合わせてダメなら状況を合わせようというはずだ。
一哉も暇じゃない。当然のように瑛人に同行を求められた一哉は、できればこの日一回で全てを終わらせたかった。
「一哉、お前それで大丈夫なの?」
「大丈夫って何が」
「なんも武器持ってないだろ。襲われたらどうするんだ」
「一目散に逃げるさ。狼男って戦って勝てるものなのか?」
「そっか……」
両手をひらつかせる一哉に対し、瑛人は懐にナイフを隠し持っていた。とはいえキャンプで使うアウトドア用のものだ。家にあったそうだ。一哉からみれば、本当に狼男がいるのだとしたら、そんなもので対抗できるようには思えなかった。けれどもこれより大きければ学校に持ち込むのは大変だ。
カツカツと廊下を響く靴音に瑛人が硬直し、一哉がその肩を叩いて宥める。
「見回りの教師だよ。大丈夫だ。それより通り過ぎたら調べるからな」
教室の窓から差し込む残光は、影に潜む瑛人が頷くのを確かに照らした。
校舎は三階建で上から一年、二年、三年の順だ。各階の担当教師が一時間ごとに各階を見て回る。人感センサーの設置は随分先らしい。予算を組まないといけないそうだ。
だから今日、教師の見回りを掻い潜りながら夜まで狼男の出現を待つ。互いの親には勉強会をすると言ってある。
そして教師が通り抜ける瞬間、世界は瞬くように一段と明度を落とした。
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