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春妃は氷室の方を見た。
氷室は重い口を開けた。
「春妃くんと違ってね、私の黙秘は加担していたことになる。そればかりか…。」
氷室は言葉につまった。手を組み、額をごつごつと自分の拳にぶつけた。それ以上は言葉にできないようだった。
春妃は苦しそうな氷室の姿に心を痛めた。こんな話をする為にここに来たんだろうか?
やはり来てはいけなかっただろうか。更なる痛みを彼に与えに来ただけのような気がした。
はぁ。と氷室は大きく息を吐いた。
「私たちは、東くんが警察関係者では無いのかと怪しんだんだ。と言っても気付いたのは途中からだ。」
『私たち』という表現に、春妃は少し背筋を凍らせた。
「でも…私は罪を告発しようとは思わなかった。このままバレなければ、シラを切るつもりだったんだ。自発的に告発しようとした訳じゃない。」
そう言うと氷室悲しそうに微笑んだ。
「そうだったら、少しは気が晴れたがね。」
いつもの大好きな声で、知らない世界を淡々と話す氷室。春妃は座っているのが、それ以上聞いているのが怖かった。
「…彼が小田切くんを使って君に近付いた。その時ようやく気が付いたんだ。君は私のせいで怪しまれているんだと。
その時思い知ったよ。
私には君の隣に立つ資格が無いんだと。
彼の隣に立つ君の姿を見てね。その場所は私の為の場所ではない気がした。
最初から、私には君と共にいれる資格は無かったんだよ。」
最後に氷室は春妃を見て微笑んだ。
「すまなかった。」
もうそれはいつもの氷室なのに、知らない人みたいだった。
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