眠り姫B

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+ + +  花柄のワンピースにロングブーツ、それに鼠色のコートを羽織って、私はあの日の公園へ向かった。  歩けども、歩けども、あなたに辿り着くことは決してない。  不意に漏れ出す息は白く、また季節が移り変わっていくのを感じる。私だけがおばさんになって、花柄のワンピースはどんどん似合わなくなっていく。それが堪らなく悲しい。  唯一味方といえば、さっき自販機で買ったココアだろうか。私は小さな缶を両手で包み込み、その温かさに縋りつく。  一瞬、ここは眠り姫Aの夢の世界ではないかと、期待してしまうときがある。目覚めればあなたがいて、さっき見た怖い夢の話をして、"おかしいね"と笑って……何でもない一日を過ごして、また眠りにつく。たとえ百年眠ってたとしても、あなたのキスで目覚めるならばそれでいい。  でも、刺すような風の冷たさに、やっぱりここはBの世界なんだと思い知らされる。  しばらく歩くと、あの日のベンチに差し掛かり、私は思わず息を呑んだ。  誰もいないベンチにひとつ、ブラックコーヒーの缶が立っている。  誰かが置いて帰ってしまっただけだろう。でも、いまの私はそう思いたくはなかった。  私はゆっくりとベンチの端に腰掛けた。変な緊張感も抱いたがそれも一瞬で、数分後にはココアを啜っていた。ふと横を向くと、ブラックコーヒーの缶が、さっきと同じように直立している。その状況がおかしくて、気付けば笑っていた。  今日も王子様Aは、ベンチでブラックコーヒーを啜っている。今朝もマーマレードを塗ったトーストを食し、牛乳パックの口は不恰好だろう。  悪い魔女の呪いで離ればなれになったふたりは、実はお互いよろしく暮らしていて、最終的にはハッピーエンドを迎えるはずだ。  眠り姫Bの私は、そうやって都合よく解釈しながら、もう一度温かいココアを啜った。 【了】
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