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第一章
吐く息は目の前を微かに白く染める。十二月の真冬に突然故障した教室の暖房設備。教員により配布された使い捨てカイロから伝わる筈の温もりさえ今は感じることはない。
担任教師の発言により静まり返った室内の空気は、身に染みる寒さよりも冷たく重いものだった。
「バキッ」
静けさを切り裂く様に響く異音。誰一人、気にする者はいない。
鈍い音の正体は、一人の女子生徒の机の中から発せられた。細く白い手首の先には自らの力で強く握りしめられた拳と折れた竹製の編み棒。緩む事の無い力はやがて体温を上げ拳を赤く染めゆく中、折れた竹片が指先に刺さったのだろう、編みかけのマフラーがじわじわと血色へ変化してゆく。
担任教師は涙を堪えながらも、一分間の黙とうを指示。一限目の授業は急遽中止され緊急全校集会で校長の話を聞く事となった。
ずっと憧れだった先輩――。
彼にとって高校生活最後となるクリスマスの日に想いを告げようと、十月から計画的に編み進めた手編みのマフラーはこの日を最後に完成する事は無かった。
『彼は校庭の木で首を吊り、この世を去った――』
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